今日の属性鑑定は、五歳になった貴族子女のみ。領内にある教会で、神殿から派遣される専門の神官様が行ってくれる。理由は血筋的に魔力の内包量が多い為、早期に制御訓練が必要だからだ。
 
 魔力内包量が少ない平民は、十四歳~十六歳までに全員一年通って魔法の基礎と生活魔法を中心に学ぶ『魔法学園』の入学時に受けるからいない。魔法発展でできた国なだけあって国立だし、全員無料だよ! 貧しい人も差別なく入れていいよね! 仕事がある人は、仕事の合間に行って単位を取得する『単位受講』もあるんだって……単位制って日本の大学みたいだよね。生活魔法使えないと、この世界では生活しづらいから丁度いいんだろうけど。


 私は領主の娘だから全員を見届ける必要があるらしく、最後。一時間経つかなぐらいだったし、見てるのは楽しかったからいいけどね!

 属性鑑定は普通の鑑定魔法と違って、神官様に手をかざされた対象者が自分の持つ属性の色の光に包まれてわかる仕組み。あ、神官様の目が赤く光った。魔法を使うと目が赤く光るんだって。


 貴族は属性色を何色も持つ者も多く、属性が多い者は適性が高い順から光る。一つの属性特化型は、一つの強い光になる。ちなみに、属性は遺伝せず自分の魂が持つ性質によって異なるって、神官様から説明を受けたわ。ゲーム内での私なら父が持つ雷の黄と風の黄緑でも水色の氷と茶色の土を持つ母とは違い、強い火の赤色の光のはず……なんだけどね。ここで私的問題発生。一瞬 眩暈(めまい)がした後、私は属性の色に光出した。風の黄緑・闇の黒・空間の(だいだい)・火の赤と土の茶、そして鑑定魔法の初級が使える小さな紫。火魔法特化型ではなく、高適性は風の多属性だった。

 鑑定に関しては、眩暈の際になんとこの世界の主神セラータ様の声が頭に響き、「初級だけれど鑑定魔法が使えるように加護を与えるわ」ってくださった。ついでに「この世界に来てくれてありがとう」とお礼も言われてしまったわ……何でも、こちらの世界の人達の魂だけでは発展できないから、別の世界の魂にアルバへ来てもらっているらしい。そのお礼にと。本来のレティシアの魂だけなら火魔法特化型で、()の魂と融合したから属性が変わったと教えていただいた。レティシアが消滅したのではなく、二人で一人の人物に進化(・・)したと考えたらいいという事だそう。よかった、レティシアの魂を追い出したわけじゃなくて。


 眩暈はここ半年の淑女教育のおかげでふらつくのをギリギリカバー出来たようで、誰も気付かなかった。それよりも六色に光ったことに注目がいった。貴族でも多くて三色程度、五色で稀。聖属性は別枠だが、それ以外の普段全属性と呼ばれる十一色に至っては、女神による他世界からの招喚者のみだそう。そんな話聞いてない……。

 物凄く喜んだのが父で、外で親バカ発揮なの!?って思ったら、領主家として領民を護るのに沢山の属性魔法が使えるのはいい事だ!って叫んでた。普通の答えに、ただの親バカじゃなくしっかりと領主様してたのねって思ったのは内緒にしておこうと思ったわ。

 ちなみに、アルバでは生活魔法は属性魔法に入らない。属性魔法は攻撃や防御、治癒に特化した魔法のため、対魔物として使うので普通に生活しているとほぼ必要ない。平民も魔法学園で習うが、国内外飛び回るハンターや各公爵家所属の対魔物討伐兵士(レンジャー)に志願しない限り、魔物に襲われた等の緊急時以外は生活魔法しか使わない。というか、魔力量が少ない為に使えない。学園入学時の鑑定で内包量が多いと分かった者は貴族の通う『国立学院』へ編入し、属性魔法について学ぶ。将来は王宮 官吏(かんり)や実入りの良い対魔物討伐兵士(レンジャー)へ志願する者が多いが、魔力内包量が多い平民がまず少ない為、スリや盗賊等、対人戦の時は基本物理攻撃のみだと順番待ちの時に父が教えてくれた。先の神官様みたいに目が光ったら、魔法来るってわかっちゃうしね!


 最後の私が終わった後はすぐに解散となり、それぞれの馬車に乗り込んで家路に着いた。






「「「お帰りなさいませ。旦那様。奥様。お嬢様」」」


 屋敷に着くと、沢山の色の薔薇を模した飾りつけがしてある中、使用人総出で出迎えてくれた。なんでもローズ国貴族は、昔から属性鑑定の日に国花の薔薇を各属性の色の生地や物を使って表し、屋敷中に飾って家族で祝う。模した薔薇を使うのは、珍しい色の本物の薔薇が王城の温室にしか無いためなんだって。

 一旦部屋へ戻り、アイボリーのレースが沢山付いている簡易ドレスをジゼルに着せてもらう。髪は属性魔法の橙と赤、茶と紫のリボンを一緒に編み、黒のリボンで纏めたハーフアップにしてもらった。高適性だった風は、チョーカーの代わりに黄緑色のリボンを結んでもらって表した。うん、シンプルなドレスとレティシアの少し赤めのダークブラウンの髪に属性カラーが映えて、可愛らしいお人形さんが出来たわ。ジゼルもすごく満足そうに頷いてる。


「お嬢様! 今日も完璧に可愛いです!!」
「……ありがとう」


 ジゼルの仕事、完璧だと思うわ。レティシアの可愛さを余すことなく引き出すように、着飾ってくれるし。……だけどね、毎回仕上がった私を見て涙ぐみながら褒めなくてもいいと思うの。もうここ半年毎日だったから、諦めたけどね。

 そんな遠い目をした私はジゼルの案内で、ホールに行った。我が家では家族と使用人総出のお祝いパーティーだから、広いホールで立食パーティーにしたらしい。両親は使用人一人一人を大切にしてるから、勿論全員参加。

 うちは対海の魔物最前線領地だから王都には滅多(めった)に行かないけど、社交のために使用人に管理させている王都の屋敷が一応ある。そちらでも、今日は使用人だけのパーティーを開いてるらしいわ。彼らを労う意味もあるからねって、母が教えてくれた。

 パーティーは家族だけなので誰も来ないと思っていたが、引退せず家督だけ譲って討伐を楽しんでる祖父母や淑女教育のために別棟に滞在中の大叔母様もいらしていた。普段中々会えない祖父母や、母の様に憧れ始めている大叔母様が祝ってくれたのは素直に嬉しかったわ。




 帰宅後直ぐパーティーで、夜まで続いた為にポテサラは作れなかった。勿論諦めてない私は、次の日の早朝から動きやすそうな装飾のないシンプルなワンピースを選び、髪はトップから大きな三つ編みをして下の方で昨日の黒リボンで結んでから大きめのハンカチを三角巾がわりに使って準備した。結び終えたところに、部屋から物音が聞こえたからかジゼルがやってきた。


「おはようございます、お嬢さ……」
「ジゼルおはよう! どう? 料理出来るのが待ち遠しくて、一人で準備しちゃったわ!」


 浮かれすぎて満面の笑みで振り向いたら、目が落ちそうなくらい見開いたジゼルがいたわ。なんか前にも見たわね……。

 いつまでもこの状態のままじゃあ厨房に行けないから、ジゼルの側へ行き、袖を引っ張る。ハッとした表情の彼女は、服装の乱れがないかすぐさま確認してくれたわ。


「お嬢様完璧でございます! とてもかわ」
「そう! ありがとう。ところでジゼル、エプロンを借りれるかしら? 流石にクローゼットには無いから、どうしようかと思って」


 少々被せ気味なのは、許してくれるよね? こうでもしないとまた私を愛でる時間(一人の世界)になっちゃうからね……。毎度毎度飽きないよね、ある意味尊敬するわ。


「勿論! ご用意しておりますよ! お嬢様が厨房について、我々に初めてお話くださった時から準備しておりました!」


 こちらですと入ってくる時に抱えていた箱を、ローテーブルに降ろして開けてくれた。中には、私サイズの裾に白のレースがついた薄い黄色のエプロンが入っていた。凄く好みなデザインだわ。


「……素敵ね」
「最近のお嬢様はシンプルなデザインの物をお召しになるので、裾に少しだけレースをあしらって貰いました。細やかですが、我々使用人一同からお嬢様への属性鑑定のお祝いです」
「あれ? 本来ならお祝いパーティーだけでしょ?? なのに、準備してくれたの?」
「ええ。お嬢様、ずっとお料理をして皆に食べて欲しいと仰ってたので。お料理ができる様になったら、少しでもそのお時間を楽しんでいただける様にとご用意させていただきました」
「ありがとう……。早速着るわ!」


 皆の気遣いが凄く嬉しかった。早速着て、いっぱい作って、お父様とお母様を認めさせて、火や包丁の扱い許可も貰える様にしないとね!

 それに心温まるプレゼントには、やっぱり心温まるように手作りのお返しよ!


 エプロンを着たら、直ぐにジゼルの案内で厨房へ行ったわ。朝食の準備が粗方(あらかた)終わっていた厨房の隅で、ヤンに茹でてもらったイモを粗めに潰して貰う。その間に用意してもらった材料の中から、卵・塩・酢とビーの蜜(はちみつ)をボウルに入れ、混ぜていく。……流石五歳児。腕力が足りず、結局ジゼルに手伝ってもらいながらもったりするまで混ぜた。途中、オリーブオイルを入れるのを忘れかけたわ。出来上がった手作りマヨネーズと、あらかじめ切ってもらっていたウリ(きゅうり)エペの根(にんじん)・ハムをヤンが潰したイモと混ぜていく。塩とコショウで味を整えて、私的に食べたかったポテサラの完成! やっと食べられる……。

 丁度朝食も出来上がった様で、一緒に出してもらうことにした。多めに作ったから、残った分はジゼルや今朝の厨房メンバーと協力してくれたアルマンが後で味見することになった。皆絶賛してくれたわ、お世辞抜きで。ちょっと嬉しい。ヤン曰く、いつもと違うマヨネーズの味や、ポテサラに食感が違うものが入ってたから食べ応えがあったらしい。日本だと沢山種類あるけど、こっちは一種類しかないし、市販のだと味濃いからねマヨネーズ。お嬢は天才か……って呟いてたのは、聞かなかったことにした。

 両親もいつもと違う具沢山ポテサラを不思議そうに眺めていたが、美味しい美味しいと言いながら食べてくれた。手伝ってもらったけど、私が作った話をすると驚いてたわ――ジゼルとヤンに確認するくらいに。おかげで、少しだけ厨房許可してよかったと思ってもらえた様だった。




 もう少し色んな料理を食べてもらえたら、火や包丁を使っての料理も許可してくれそうだな……と思いながら、ポテサラのお代わりを堪能(たんのう)した。