今夜は昨日の残りの材料でオムライスを作った。やはり自炊はいい。温かい匂いが心に染み渡る。

「美味しいです。先輩」

「ありがとう」

 そして一緒にご飯を食べる相手がいるのもとても素敵なことだ。自分のために料理が出来ないのはこの1ヶ月でよく分かってしまったから尚更だ。

「日曜日、どこ行きます?」

「うーん。水族館?」

「先輩は水族館が好きなんですか?」

「うん。好きだよ」

「じゃあ水族館に行きましょう」

「佐藤くんは行きたいところ、ないの?」

「先輩の行きたいところについていきます」

 先輩想いのいい後輩くんだ。

 食後。お茶やテレビを楽しみながら昨日の読みかけのゲーム雑誌を片手にのんびりとソファでくつろいでいると後輩くんが隣に腰を下ろした。

「先輩もゲームやるんですか?」

「うーん。やったことがなくて。なにかお勧めとかある?」

「うーん……こういうのはどうです?」

 後輩くんによって開かれたページには花や作物、動物を育てるゲームが紹介されている。

「佐藤くんはやってるの?」

「いや、僕はやってないですけど」

「佐藤くんがやってるゲームがいいな」

「僕がやってるのは……」

 ほんの少し戸惑いながら部屋へ行く後輩くん。開けたままの扉が入室を許可しているような気がしてそっと踏み入ると夏希がいた頃の面影はなく、黒いシックな家具で統一されたその室内には所々にスポーツカーのポスターが貼られ、想像していたよりずっと綺麗に整頓されていた。

「これ僕が前に使っていたPCです。まだまだ動くのでどうぞ」

「え」

「一緒にやりたいんですよね」

「う、うん」

「じゃあやりましょう」

 配線を手際よく繋いでいく後輩くん。こういうところは頼れる後輩くんだ。

「で、でも私、パソコン苦手なんだけど……大丈夫かな」

「大丈夫ですよ。はい、ここに座ってください」

 リビングの一角にセッティングされたパソコン。そのモニターの前に正座する私。

「まず先輩のアカウントを作りましょう」

「う、うん。わかった」

 後輩くんにひとつひとつ教わりながらパソコンの設定を行い、ゲームのアカウントを制作していく。

「こ、これ怖くない?」

 迷彩服に銃。そんなゲームのイラストに緊張感が湧き上がる。

「とりあえずやってみましょう」