「うわ!お前さては女だなー!?」


これを相手にするほど馬鹿じゃない。


また面倒なこと叫びやがって。


今日は、環と美容室に行く日。

主治医に許可を貰えた。


やばい、顔がニヤける。

久々の環との外出だ。

環を病院に迎えに行って、車椅子で移動する。


多分、歩いてはさすがに。


そんなことを考えて門まで歩く。


「灯織」


俺の、弾む心臓が、グッと締め付けられる。


その声の先には、白いシャツに、紺のスラックス、黒のベルト、黒のスポサン。


「え」


俺の思考は完全に止まる。

ぼと、とカバンを手から滑り落とした。


「なんで」


俺のカバンを拾い上げ、クスッと笑うその男は、紛れもなく環で。

俺はその光景が信じられなくて。



「鹿瀬さんに、送ってもらったんだ。どうしても、ひおを迎えに行きたいってワガママ言ったの」


鹿瀬とは、主治医の名前。


体が震える。

やばい、泣く。


ダメだ、まだ泣くな。

こんな、普通に外出て、話して、髪切りいって。


俺は、なんか、バチあたんじゃねえか?

……ダメだ、なんも考えらんねえ。


「ふふ、ひお、固まってる」


嬉しそうに笑う環。


「……そりゃ、固まるだろ」


環は目線を俺に合わせて、ポンポンと頭を撫でる。