「お前さぁ、今どんな顔してるか分かってる?」


嫌そうな顔を作ってみせるが、目は優しくて。


「お前んち行かねえって言っただけで、もう一生会わねえとか言ってるわけじゃねえんだから、その辛気くせえ顔やめろよな。」


首の後ろをかいて、少し照れたように横を見る灯織。


「…っ」


グッと拳を握りしめて、抱きしめたい気持ちを押し殺す。


「はい、出来たぞ……ミキちゃん、ではないんだよな」


市東さんの言葉に、灯織が市東さんを見る。


「すみません、ずっと嘘ついてて。ミキってのは偽名で。本名は鳳灯織って言います」


その言葉で、頭が冴えてくる。


灯織は覚悟を決めた。


鳳の人間として生きる覚悟と、丞さんのそばにいる覚悟を。



「鳳って……」


風見が目を見開く。


「つか、風見さん。俺、柊吾の彼女じゃないって何回言えば理解してくれんの?」


「え?あ……つか、ミキちゃんて男なの?」


「女だよ。色々あって粗悪な環境で育ったからさ、男装が身についてて口悪いんだ。こっちが素だよ」


「……じゃあ今までは完全に演技か」


「うん。薫さんいただきまーす。」



ごくごくと勢いよく飲む灯織。


「そんな喉乾いてたの」


「まーな。丞さんと柊吾が殴り合い始めたりしたら、流石に俺じゃ止めらんねえし、薫さんに泣きつくしかねえって思ってた」