見慣れた整った顔。

けれど、いつものようなやわらかさは無い。



「薫さん、久しぶり」


俺から目線を逸らし、市東さんに笑いかける。


「おう、なんか飲むか」


市東さんの下の名前は薫。


「ん〜、今日はやめとく。」


俺は席を立ち、頭を下げる。


「丞さん、お久しぶりです」


顔を上げる前には、空気が冷たくなるのを感じた。


「久しぶり。」


待ち合わせをしていたわけじゃない。

俺が今日ここで呑んでいたのは、灯織が最後に挨拶に来ると言っていたからだ。

けれど、来たのは丞さん。


「灯織は一緒じゃないんです?」


俺の目を温度のない目で見る丞さん。


「これ、返す。合鍵」


俺の問いには答えずに、差し出されたのは灯織に渡してあった俺の家の鍵。


「あら、元カレの合鍵、今カレに返却させるとか、やりますね。ミキちゃん」


風見が目の笑わない笑みを浮かべ、軽く話す。


その言葉に丞さんは鍵を持ち直し、天井を見上げて息を吐く。


「ほら、言っただろ。風見は口出すんだよ」


そこで、聞き慣れた低めの女の声。


後ろからぬっと現れたのは黒のフードを被った、一見男のような女。