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「灯織、彼女できたの?」
「は?」
犀川が俺の机でスナック菓子の袋を開けて、それをつまみながら俺に聞く。
「この前騒いでたっしょ」
テンションが若干低い犀川。
「ああ。いねえよ」
「そ。作んないの?」
「恋人って、作るもんじゃねえだろ。」
「ふふ、時々、見た目と真逆な言動するよね」
「偏見だな」
スラックスのポケットに手をツッコみ、足を組んで寝る体勢に入る。
「じゃあ、好きな人とかいないの」
そんなこと、改めて聞いてくる理由なんて1つしかない。
興味本位なら、こんなテンション低くないだろうし。
「いねえ」
「じゃあさ」
その後に何が続くのか分かった気がした。
「あたしと試しに付き合ってよ」
告白じみたものは、そこそこされてきた。
けど、近い存在に言われたのは初めてだ。
「何で」
目を瞑ったまま聞く。
「あたしが、灯織のこと好きだから」
周りが静かになり、微かに話し声が聞こえる。
教室で言うのかよ。
「へえ」
俺は目を開けて、犀川を見る。
「そりゃあ、ありがてえな」
犀川の真っ直ぐな目が少し揺らぐ。
「俺はお前のこと、好きじゃねえ。だから、試しにでも付き合う気はねえ」
席を立ち上がり、教室を出る。

