……間違いなく、継母さんが心を病んだのは、俺が引き金だった。
それまで、周りに何を言われても、耐えて耐えて笑っていたあの人を壊した。
「あ、来たみたいよ?」
純菜の声に顔を上げる。
兄貴が車を降り、自ら助手席のドアを開ける。
するりと滑るように降りたのは、灯織。
発色のいいグリーンのマーメイドドレス。
足元は深めのスリットが入っていて、白い肌が際立つ。
艶のある黒髪は、片側に流され緩くウェーブがかかっている。
兄貴の腕に自分の腕を絡め、ゆったりとこちらに歩いてくる。
そこに立つだけで、存在感と重圧感のある兄貴。
そんな兄貴に負けず劣らずの存在感を放つ妹。
常に先頭を突き進んできた男と、暗闇をずっと一人でもがき苦しんでも尚、這い上がってきた女、か。
施設に迎えに行った再会の日、変わり果てた小さな化け物は、俺とは違うのだと確信していた。
「……奇麗」
純菜のこぼれ落ちたようなその声。
ああ、鳥肌が立つくらい、奇麗だ。
ドレスや小物は兄貴のセレクトだろう。
まるで、灯織を知り尽くしていると主張しているかのよう。
そして、あのメイクは丞だ。
仲直り、したんだな。