あたしなら、何があったのか聞いてしまうけれど、真壁さんはそうしない。


「髪質、良くなったね。」


髪を触られながら、目を閉じている灯織さん。


「ドレス、グリーンで、装飾もエメラルド系だったからそれに合わせるね、メイク」



「す、凄く高そうなドレスでしたよ!」



黙っていることも出来ず、よく分からないことを口走る。

灯織さんは、目を閉じたまま反応しない。



「天馬さんの手配したものだからね。それなりに高価なものだろうね」


落ち着いた声色で答えてくれる真壁さん。


「…会ったこと、あったのか」


「うん、文化祭に一度顔を出しに来てたから。まあ、挨拶しかしてないけど。ほら、天馬さんもあんな感じだし、俺も高校生の時は、こんなペラペラ話す人間じゃなかったからさ」


やっと一言、灯織さんが声を発した。

そして、その真壁さんの言葉に、クスリと笑った。


「ガチなんだ」


楽しそうに笑う灯織さんとは対照的に、少し切なそうに笑う真壁さん。


「柊吾に、聞いた…?」


柊吾…って、柿谷柊吾って人の事かな。

この辺では名前を知らない人はいない。

若くして数多くの店舗のオーナーを務める、確か、少し怖い人。