あたしは、見たことがなかった。


真壁さんの、こんな姿を。


彼女が出ていった、この部屋で座り込み、頭を抱えて静かに泣いているその人。


その日から、彼女は店に来ることはなく。


再び現れた彼女は、いつもの様に男装をして、酷く疲弊した顔をしていた。


そんな彼女を見て、動揺し、立ち尽くしていたはずの真壁さんは、部屋に入るなり、いつも通り彼女に接した。


彼女はみるみる、瞳に涙を浮かべ、溢れさせた。


そして、綺麗に笑い、真壁さんの言葉に頷いた。





「良いわけないだろ」


部屋の外でそう低く唸るように言った真壁さんもまた、あたしは見たことがない姿で。

まるで、別人なんじゃないかと思うほど。


外に電話をしに出ていった真壁さんが戻ってくるタイミングで、ドレスが届いた。



「私、鳳天馬様の秘書の仙崎と申します。こちらが灯織様のドレスと靴、装飾品でございます」


え、……お、おおとり……?!


オーナーのお知り合いなのだろうとは思ったけど、鳳って、あの財閥の人ってこと?


でもなんで、そんな人が灯織さんを…?

真壁さんよりは年上に見えたし、オーナーのこと呼び捨てだったよね?



「エクステ、先に着けちゃうね」


真壁さんはいつも通り、灯織さんに接する。

心做しか、灯織さんの殺伐とした雰囲気も柔らかくなった気がする。