「ああ、その件は聞いている。」



液晶画面と向かい合いつつ、通話相手と会話をする。


腕時計を確認すれば、丁度いい時刻。


ふう、と息を吐いて、


「これから出る。送迎はいらん」


海外から取り寄せたオフィスチェアから立ち上がり、タブレットを秘書の仙崎(せんざき)に渡す。


「はい」

ゆるりと頭を下げた仙崎の隣を過ぎ、1階までエレベーターで降りる。


『もう行かれるんです?』


通話相手の問いにため息が出る。


「それ以外に何がある。お前はいつも、あの子のことになると、無意味な質問をするな」


『今のあの子はよりデリケートです。くれぐれも』



俺に命令じみた言い方をするその男。



「無意味だと言っている。何度も言わせるな。生ぬるい甘さが全て相手のためになると思うな」


『…あの子は』


「過保護になったものだな。あれだけ嫌がっていたとは思えん。お前の努力は認めよう。お前はあの子の味方であり続けるといい。俺は悪役にでもなろう。」



通話を切り、車を走らせる。


目的の場所は、酷く懐かしい。

車から降り、少し歩く。


入口に立つガタイのいい男達は、俺を見て頭を下げ扉を開く。

自身の親の権力と、自身の才が見合わず、未だブランド物の服に着せられたように不格好な若者たちが、自信と劣等感を含んだ顔で酒を飲む。