席を立ち、教室を出る。


「灯織ぃ!逃げないでよぉ!どういうことー!」


廊下にまでそんな声が響く。

何が楽しくて俺に構うんだか。


おっと、また答え出ても仕方ないこと考えた。



「灯織くん!」


声をかけられ振り返る。


「何」


菓子をくれた、確か西山美宙(にしやまみそら)。


「ま、前にあげたお菓子、どう、だった?」


上目遣いで俺を見る西山。


「あー美味かったよ、サンキュ」


甘いものは嫌いじゃない。

この見た目だと、馬鹿みたいに甘いもん学校で食えねえからな。

柄じゃねえっつーか。



「そっか!良かった……迷惑だったかもって心配で」



迷惑?

あー。別にものを貰うこと自体は迷惑じゃない。



「俺、こんなだけど甘いもん好きなんだよ。だから、迷惑じゃねえよ。……けど」



けど?

と俺の言葉を復唱し、キョトンとした顔で俺を見上げる。

いや、これは言うべきじゃねえか。

女が好きな男に向ける目は、俺でも分かる。


恋愛とか経験はないが、同じ女だ。


今は言うべきじゃないな。


「いや、何でもねえ。」


じゃあな、と言って便所に向かう。

恋愛なんか、アホらしい。