そう、普通はそう。

殴るのを見ても、自分が殴られても、怒るんだよな。


「環は怒らなかった」


丞さんが立ち止まる。


「俺が物を壊そうが、汚そうが、環を殴ろうが、蹴ろうが、殺そうとしようが、怒らなかった。笑ってた。


僕は痛くない、君の方が痛いでしょって。君の痛みがもし減るのなら、僕は構わない。……ただ、痛みが増すのならその力で、僕を抱き締めてって」



愛だった。


初めて、俺が受け取ることを許された愛。


「環と、もう抱き合うのはやめにした。あれほどまで幸せで温かい時間を手放したくなかった。けど、もう、環には辛い思いさせたくないから」


始まるものは全て、終わりがある。

でもこの終わりは、残酷なものじゃない。


「だから、今度は、俺が誰かを救う番なんだと思ってる。……ま、こんな小っ恥ずかしいこと、進んで話すタチじゃねえけど、丞さんに迷惑かけちまっ」


振り返れば、言葉が続けられなくなる。




急なことに驚いて言葉が詰まった。


「恥ずかしくないよ」


後頭部と背中に回された手。

その手が大きくて、すごく熱いのがよく分かる。


「……慎矢のこと、嫌わないでやってくれ。今はああすることでしか自分を守れない。確かに、俺は女だけど、環だって体弱いのに、怪我をしながらも俺を1人にしなかった。だから、どんな形でも、俺はあいつをひとりにしちゃいけない」