「灯織、帰るよ」
その声に、俺を掴む手が緩む。
トンっと皇の胸を押し、胸元を直して耀介の元へ歩く。
「皇くんも、気をつけて帰るんだよ」
俺がズンズン歩く後方で、そんな明るい声を皇にかける耀介。
車に乗り込むや否や、俺は目を閉じる。
「頑張ってたね」
「タイミング悪ぃ」
俺の仕事の評価ってところだ。
「まだ夏が終わったばかりなのに、衝突が絶えないみたいだね」
皇と柿谷。
「俺が止めるべきか」
「いいや、大怪我を負うような喧嘩じゃなきゃ、まだ様子を見て少しずつで良いんじゃないかな。あの様子だと、皇漸は灯織に興味を持ってるみたいだし、変な動きはすぐバレそう」
「俺がどんな人間か、かなり観察してるみてえだった。俺があいつ監視してんじゃなくて、あいつが俺を監視してんじゃねえか?」
シートを倒して呟く。
「仕方ないんじゃない?入学早々遅刻して、その弁解を初対面のクラスメイトが皆で担任にしてくれるような人気者だからね、灯織は」
「……変わりモンの集まりだ」
「ふふ、灯織はその口の悪さを抜けば、かなりいい子だからね」
別に、いい人間なんかじゃない。
ただ、そこらの子供は困っている人間に声をかける、手を差し出すことを良しとしているものの勇気がない人間が多い。
その勇気が、俺はバグってるだけ。

