「ついに!!私の大好きな体育祭ー!!」

赤いハチマキをポニーテールにくぐらせ、ぎゅっと縛って叫んだ。

勉強は苦手だけど、運動神経はいい方だから、毎年体育祭は楽しみにしてたんだよね!!
しかも今年はクラスリレーのアンカーやるから気合い入れなくちゃ!!

「初、開会式始まるよ。」
友達に声をかけられ、走って列に入った。

開会式を終え、席に座っていると、後ろから肩をポンッと叩かれた。
誰だ、もしかして颯?
そっと振り向くと、そこには髪をくるくると巻いて、ハチマキを首にさげてる可愛らしい雰囲気の女の子が居た。

「2組の初ちゃんだよね。私1組の愛美って言うんだけど。」

名前を言われ、ハッと思い出す。
ああ、愛美ちゃん。学年でも可愛いと噂の、そして颯のファンで1番有名な子だ。
颯くらいのイケメンにもなるとこんな可愛い子から好かれてちゃうんだ…。
そんな事を考えてたら、愛美ちゃんの鋭い視線を感じて、私に用があったのだと思い出した。

「そうですけど、何かご用ですか…?」

なんか怖いな。
なんて考えてると愛美ちゃんの口が開いた。

「ちょっと校舎裏の方来てくんない?
話があるの。」

え?校舎裏?
少女漫画でヒロインが呼び出される定番のあの、校舎裏…?

こちらに承諾を求める愛美ちゃんの強い目力に逆らえるわけがなく、

「分か、りました…。」

ゆっくりと足を運び、愛美ちゃんの後について行って、校舎裏につくと愛美ちゃんは再び口を開いた。

「単刀直入に言うね。
颯くんと同居生活してるって本当?
もし本当なら今すぐ止めて。」

あ…なんとなく察しはついていたけど、やっぱりそれか。

私も出来ることならそうしたいと思ってた。

「親の仕事の都合で。
勝手に止めるとかは出来ないし…。」

「出来ないし…何よ。」
睨むように言う愛美ちゃんにビクッとする。

危ない…。この生活も悪くないって言いそうだった。
あんなに嫌だと思ってたはずなのに、
私、何言おうとしてんだろう。

「とにかく、いくら幼馴染だからって颯くんと関わらないでよ。それに初ちゃんは、所詮元カノ、でしょ?」

その言葉は、痛い程頭に響いた。
そう。私は振られた。元カノだよ。
でも、別にいいじゃない。同居生活はしょうがないんだから。

まただ。
もう好きじゃないはずなのに、なんでこんな事考えちゃうの。

そんな私の気持ちを察したのか、愛美ちゃんの顔がカッと赤くなる。

「ふざけないで!!」

伸びた手にドンッと体を押されて、地面に倒れた。

手は着いたけど、足は変な方向に曲がって着いた。
痛みがじわじわと足首に迫ってきた。
捻ったかな…。

痛い…。もうなんなの。
なんでこんな目に…。

零れそうになった涙を必死に我慢した。

「ちょっと押しただけじゃない!
わ、私は何もしてないから!
とにかく、颯くんとの事、認めないから!」

そう言って愛美ちゃんは、少し青ざめた顔で叫んで走り去って行った。

殴り返したいくらいだったけど、今1番考えなきゃいけないのはそこじゃなかった。
どうしよう。まだ出る競技沢山あるのに…。

「とりあえず少し水で冷やして、我慢すれば大丈夫だよね。」

水道を使って冷やした後、席に戻った。
「やば、もう次の競技はじまるじゃん。」
足は…、大丈夫だよね。

3つの競技をやり切り、残りはリレーだけとなった。

大丈夫、大丈夫と心の中で唱えるのと反対に、足の痛みはどんどん増していく。

「やばいかな…。でもアンカーをやらない訳には行かないし、我慢しよう。
ここまでいけたんだから、大丈夫!!」

ハチマキを結び直して、気合いを入れ直し、リレー選手の整列に入ろうとしたその時、後ろから腕を掴まれた。

「えっ…?」

振り向いた先には、颯がいた。
なぜか切なそうな顔をして。

「ど、どうしたの颯…。
私もうリレー行かなきゃ。楓もでしょ。」

「リレー、お前の分、俺が走る。」

「え?何言って…。」

と言いかけている時、颯は私の手を友達の手に繋いだ。
ちゃんと繋いどいて、ってその子に言って、颯はリレー選手の列に入っていった。

え?なんでどういうこと。
なんで颯が私の分も走るの…?

顔が良い颯に言われたからか、友達は手を離してくれなくて、仕方なく席に着いた。

「ほんとに、どういう事なの…。」

リレーを見ていると、颯が走っていた。
綺麗なフォームで、爽やかな顔で、なびくハチマキさえカッコよく見えた。

あ…颯の次、アンカー。
颯はバトンを誰にも渡すことなく、2週目に入った。
なんで?もしかして私の足に気づいたの?
でもそしたらなんで、元カノなんかの、ただの幼馴染の私に、そこまで優しくしてくれるの。
頭の中がぐるぐるしていても、颯の後ろから追い上げてくる他の組は見つけられた。
自分でも分からない。
でも私は席を立ってしまった。

「颯ー!!!がんばれー!!!」

一瞬、驚いたような顔をしてこっちを見た颯は、ニヤッと笑ってスピードを上げた。

「速…。」

そして、颯の赤いTシャツが、白いゴールテープを切った。

「リレー部門、1位・赤組!!」

放送を聞いて歓声があがる。
やったー!!

ゴールして歩いている颯はこっちの目線に気づくと、ピースをして笑った。
「やっぱりカッコいいな、颯は。」
私も精一杯の笑顔で、ピースを返した。

運動会が終わり、みんなが片付けにはいっているところ、私は足の手当てで行った保健室で、1人悩んでいた。

聞いてもいいのかな。
あの時、私が振られた理由。

ずっと悩んでいた理由を聞こうと思えたのは、今日の颯が、私に勇気をくれたから。

ずっと怖かった。聞いたら、もう二度と、立ち直れない気がして、聞けなかった。聞きたくなかった。
でも、颯の行動にはいつも理由があった。
小さい時から一緒だったから分かる。

今回のことだって、颯はアンカーを代わってくれた理由は教えてくれなかったけど、なんとなく分かるよ。
知ってるから、颯が優しいこと。

「行かなくちゃ。颯の所に。」

保険室を飛び出して、廊下を走り抜けた。
足はまだ痛いけど、1分1秒でも早く颯に会いたくて、聞きたくて、我慢して探し回った。

しばらく歩いて着いた空き教室で、颯は机に腰掛けていた。

「やっと見つけた。」

「よう初。足は大丈夫か?」

やっぱり気づいてたんだね。

「うん。ありがとう。
それで、颯に聞きたい事があって来たの。」

「うん?」

ああ、本当に聞いて後悔しないかな。
どうしよう今更怖くなってきた。
俯いて言葉に詰まっていると、

「ゆっくりでいいよ。ちゃんと聞くから。」

そう言って微笑む颯の顔を見たら、言葉は意識しなくともこぼれ落ちた。

「ずっと、聞きたかったの。
2ヶ月前、私が、振られた理由。」

震えた声で放つその言葉は、2ヶ月間、ずっと言いたかった言葉。
やっと言えた。

颯は驚いた顔をしたけれど、少し目を逸らして、私の目の真ん中に視線を戻した。

「俺が、弱かっただけだよ。」

「え…?」

どういう事だろう。弱かった?
考え込んでいる私を見て、颯はフッと笑った。

「覚えてないの?
初、山川とキスしてたじゃん。
俺が振る日の前日。図書室で。」

山川…?キス…?前日…?
何を言っているのか分からなくて、必死に頭を整理する。
私は颯以外の男子とキスなんてした事は無い。
あの日の前日を思い出そうと目を閉じた。
確かその日は、放課後に、委員会の仕事で聞きたいことがあると、同じ委員会の山川くんに呼び出された。
10分くらいで終わって、出した本の片付けをしていると、山川くんが前髪にゴミが付いてるって言って、少し顔を近づけて取ってくれた…。
それで迎えに来てくれていた颯と帰って…。

思い出した内容をそのまま颯に伝えた。

「それだけだよ?本当に。」

颯は私の話を聞くと、だんだん顔が赤くなって言った。

「え、嘘でしょ…。じゃあ俺の勘違い…?」

どういう事?
顔を赤らめて顔を抑えた颯に話を聞けば、
ゴミを取ってくれていた時、ドア越しで後ろから見た颯には、キスしているように見えたのだと。

ん…?
「ちょっと待って?
弱かっただけっていうのはもしかして、
私が浮気したと思って嫉妬して振ったって事…?」

手を少しどけて目だけを見せた颯は、

「だって、浮気とか悔しくて。
オレじゃダメだったのかなとか考えれば考える程苦しくて、怖くなって振った。
ごめん。」

恥ずかしそうだけど、どこか申し訳なさそうに、泣きそうな顔をした颯。
思わず笑い声が出てしまった。

「フフッ、アハハハハッ!!
私、勘違いで振られたの!?
しかも浮気って…!!」

まだ笑ってしまいそうなのを必死に堪えた。

「だからごめんって!
そう見えたんだよ!」

大好きな人に振られた理由は、勘違いで私の事を想ってくれていたのが伝わる、笑ってしまうような理由でした。

良かった。やっと聞けた。
もう悩まなくてすむ。
それに、前より仲良くなれた気がする。

「勘違いで振るとかオレ超ダサいしクズじゃん。」

「まあ、無事解決したから!
フフッ…。」

「あ!まだ笑ってるし!」

もう一度、目が合うと、2人とも口から笑い声が溢れ出した。

こんなに笑ったのいつぶりだろう。

その後は、2人で家に帰って、ソファでテレビを見て、一緒にカレーを食べて、幸せな1日になった。

でもベッドにはいった頃、大事な事に気がついた。

「振られた理由は分かったけど、私結局まだ好きってことじゃん。
え?もう1度付き合える可能性、あるって事だよね…?」

うーん。また悩み事が…。
とりあえずいいや。明日考えよう。
電気を消して目を閉じた。