◇栗原智世の時間軸

 私が目を開けたとき、そこには白い小さな箱が置かれていた。

「うそ!」

 あまりにもびっくりして、誰かのいたずらなのかと辺りを確認した。

 周りには人がいない。
 時折り、スズメがちゅんちゅんと戯れて、桜の花がひとつふたつと間隔をあけてこぼれていた。

 とても静かな午後。

 そこに突然現れた白い小さな箱にドキドキしながら中を覗けば、ふんわりと絞った白いクリームの上に赤い苺がのったショートケーキがふたつ入っている。

「これは……」

 ケーキをふたりで食べる約束も澤田君は覚えてたんだ。

 私は桜の木を背後にして地面に座り込んだ。

 隣に置いた箱からひとつケーキを取り出す。

「ひとつで十分だから、残りは澤田君の元へ戻ってください」

 ケーキを手にして、頭上の桜を見上げながら言った。