「お菓子屋さんだけにお菓子(かし)い?」

 ジョークのつもりなんだろう。でも寒かった。

 私が真顔でいると、澤田君は気まずそうにシュンと縮こまった。

 あまり考えずにすぐ口にしてしまうのだろうか。

 いや、駄洒落は考えなければ咄嗟に出てこない。
 親しみを込めて、私なら受けるかもと思ったのかもしれない。

 こういう場合はどう接すればいいのだろう。

「うん、お菓子(かし)いの、やっぱり人がいない」

 精一杯気を遣って答えたけど、ダジャレを言ったことに気がついてもらえなかった。

 澤田君は店の中を見ていた。

「ここの和菓子、美味しそうだね」

 澤田君はまだ真剣に受け止めてない。

 絶対に何かがおかしい。

 振り返った反対側の店舗が大きめのお肉屋さんも店員が全くいない。

 店内は明るくてショーケースに入ったお肉の赤色がやけに目立っていた。

 左右何度も確認しても通行人が一向に現れなかった。

「急に人が消えたみたい」

「まさか。じゃあ、僕が確かめるよ」

 澤田君は果敢にも和菓子屋さんの中に入ろうとしたその時、ゴーンと鈍い音が響いた。

「いたたたた。なんだ? 何かに当たった」

 澤田君は頭を押さえたあと、ぶつかったのが何であったのか探ろうと手を伸ばした。

 そこには何もないのに、まるで透明なガラスに手をあてたようにそれから先へはどうしても行けない仕草をしている。

 澤田君は信じられないというように辺りをペタペタしつこく触っていた。

 まるでそれはパントマイムをみているようだ。

 駄洒落をいうくらいだ。これも何かのギャグだろうか。

 こんな時に馬鹿な事をしなくてもとイラッとした。

「もう、何をしてるの?」

 澤田君の態度に呆れて、私が和菓子屋に入ろうと一歩前に繰り出したとき、ゴンと何かにぶつかった。

「えっ、いたっ。なに、ガラスのドアがあるの?」

 目では何も見えない、そこはオープンに店の端から端まで開いているようなスペースだ。

 ドアなんてどこにもないのに、手を伸ばせば前にはガラスのようなものがあった。

 ただそれが全く見えない。

 私たちは何度も手のひらで確認していた。