「ところで、ここで何を探してたの?」

 澤田君は思い出したようにキョロキョロとして辺りを見まわす。

「ええっと、その猫がいて」
 
 私が触ろうとしていた猫のことかもしれない。

「澤田君もキジトラの猫を見たんだ」

「えっ、キジトラ? そんなんじゃなかったな。僕が見たのは黒猫だったかな」

「黒猫? それじゃこの辺りはきっと地域猫がいっぱいいるんだろうね。私もキジトラの猫を見かけて触ろうとして逃げられて、それで追っかけてきたの」

 間違ってはいないんだけど、本当は見る度に色が違って見えたからはっきりと見ようと思ったところでずるずるとここまで来てしまった。

 そんなことを説明しなくてもいいと適当に言ったけど、澤田君も浮かない顔をしながら呟いた。

「最初は黒色だと思ったんだけど、よく見たらロシアンブルーみたいにも見えて、またよく見たら、こげ茶っぽい色にも見えたんだ。だからはっきりと色が分からなくて」

 私と同じ現象だ。

 薄暗い場所や、光の加減で猫の毛並みの色が不確かになるのかもしれないと、自分の中で結論つけたときだった。不意に辺りを見回した。

「あれ?」

 つい声にでてしまった。

「どうしたの?」

 澤田君が首を少し傾げる。

「急に人がいなくなった」

 澤田君に気を取られていたから周りを気にしなかったけど、ふと視線を動かした時、違和感が生じた。

 確かにまばらではあったけど、この商店街の中には結構な数の人が思い思いに歩いていたはずだ。

 自転車だって通っていたし、地元の人にとったらここは駅へと抜ける通り道でもある。

 だから急に周りに人がいなくなることはありえない。

 澤田君も辺りを見回して、「ほんとだ」と不思議がっていた。

「こんな偶然ってあるんだね」

 暢気に言っていたけど、商店街の両端から一向に人がやってこないことが私には何か意図されて起こっているように思えた。

 急に道が塞がれたとか、一時的な規制があったとか、誰かが故意にそう仕向けなければ起きない、こんな偶然。

 近くの店を覗いてみた。一瞬人が居るように見えたけど、それらはマネキンで、そこは婦人服を販売している店だった。

 年配のおばさんが好みそうな地味な色合いの服が並び、お店の中も全体的に薄暗い。

 店主は奥にいるのかもしれないが、商品が展示されている入り口付近からは中まではっきりと見えなかった。

 またその隣の和菓子屋さんを覗けば、商品は展示されてショーケースに入っているけど、店員がひとりもいない。

 呼び鈴が置いてあったので、それを押せば出てくるのかもしれないが、和菓子を買うつもりもないので、万が一店員さんがでてきたらと思うと試すこともできなかった。

 それでも疑問が拭えない。

「やっぱりなんかおかしい」

 私が呟くと、澤田君は隣に来て中を覗き込む。