「そうだな。今思うととても楽しかったことになるのかな。僕の親友、哲っていうんだけど、すごいいい奴なんだ。僕のために色々と世話を焼いてくれて、哲と一緒にいると楽しかったな」

「ふたりでどんなことしたの?」

「それがさ、哲のお父さんが会社の社長でね、それで中学生の時にその会社のパーティに僕は誘われて哲と参加したんだ。それがすごい世界でさ……」

 とりとめもなく、澤田君はそのパーティについて話してくれた。

 豪華な食べ物、色々な飲み物、カラフルなデザート、社会で活躍する見るからにすごそうなゲストたちなど、異次元に来たみたいだったらしい。

 私のイメージとしては、おとぎ話にでてくるような貴族の集まりの世界をイメージしてしまう。

「まるでシンデレラでも登場しそうな舞踏会に思えちゃう」
「ははは、そこまではいかないけど、なんていうのかきちっと正装した社交界だったな」

「あっ、そういうのってさ、急に誰かがワインを飲んで倒れて、それで周りが悲鳴をあげてさ、事件が起こったりする舞台になりやすいよね」

「そしたら、僕が名探偵役となって事件解決って……ないない」

 私の話に合わせてくれる澤田君。
 でも探偵役も澤田君なら十分似合うと思う。

「それで、そのパーティで何が起こったの?」

「特に何が起こったってことじゃないんだけど、友達の哲のコミュニケーション力が高くて、大人顔負けにいろんな人と話すんだ。ぼくなんてその場にいるだけでも恐縮だったから、雰囲気にのまれて話すことなんてできなかった」

 おどおどしている澤田君が目に浮かぶ。

「でも楽しかったんでしょ」

「うん。哲が色々と教えてくれたからね。それが僕にとってすごいためになったと思う」

「例えば何が?」

 その時、澤田君はもたれていた壁から離れてまっすぐ立って私をじっと見つめた。

「何、なんか私変な事いった?」

 見つめられると意識して、自分の視線があちこちいってしまう。

「栗原さんの髪の毛、つややかでとてもきれいですね」

「えっ、どうしたの、急に」

 面と向かって褒められると、恥ずかしくなる。

「瞳も、虹彩が琥珀のようでとても美しい」

「ちょ、ちょっと」

「そのピンクのパーカーがとても栗原さんに似合っていて、すごくかわいい」

 ここまで褒められると、体の中の何かに火がともったように温かくなって気持ちよくなってくる。

「やだ、そんなこと、もう、やめてよ」と口ではいいつつ、顔は綻んでしまった。

 その私の様子を見て、澤田君は目を細めて笑っていた。

「と、こんな風に、その人のいいところを見つけてちゃんと伝えるってことを哲は教えてくれたんだ」

「えっ? もしかしてそれってお世辞?」

 最初から本気にはしてなかったけど、あそこまで言われたら、お世辞だったとしても強く抗えない感情が芽生えてしまった。

「ううん、僕が今言った事はお世辞じゃない。僕が本当にそう思ったこと」

 真顔で言われると、余計に照れてしまう。
 自分だけこんな感情でモジモジと恥ずかしくなるのは不公平だ。

「澤田君もさ、真面目で優しくて、背も高いし、すごくいけてると思う」

 ええい、お返しだ。