その反応に私も息を飲んで黙りこんだ。
急に静かになって気まずい空気が目に見えるようだ。
初恋の人の話は私から気軽に触れてはならない何かを感じる。
「あのさ」
頭に何も考えが浮かんでないのに、その場を取り繕うだけの声がでた。
澤田君も私に視線を向け、迷いがあるようで口に出来ないまま口元を微かに震わせている。
暫く張り詰めた冷たい空気を感じたけど、そこに何かが割り込んできた気配がする。
「あっ、今、足に何かが触れた」
澤田君が言うや否や、突然「にゃー」と足元で甲高い声がした。
それがきっかけで辺りの空気が一気に柔らかくなった。
「えっ、猫? 猫がいるの?」
私たちは辺りを見回す。かなり近くで聞こえたように思ったけど、足元を見ても猫の姿が見えない。
「にゃーお、にゃーお」
私は鳴き真似をするも、手ごたえはなかった。
「あっ、居た」
澤田君が指を差して声を上げた。
そこは焼肉屋があるところだ。
その店の前の隅っこには、外で待つ客のために、赤い丸椅子が重ねて置かれていた。
その上にちょこんと座ってこっちを見ていた。
「何も見えなかったのに突然ぱっと宙に現れて、その椅子に着地したように見えたんだ」
澤田君が説明する。
「もしかしたら、さっき足元で声が聞こえたのは、私たちの近くを横切ってたってことかな」
「多分そうだろうね。この空間の中では見えなかったんだ」
「それじゃ猫には私たちが見えるのかな」
私はそっと猫に近づいた。
不思議なことにその猫の毛並みの色が一つに定まって見えなかった。
「ねぇ、澤田君。この猫の毛並みだけど、何色に見える?」
澤田君が近くで見ようとすると猫は椅子からジャンプして降りてしまった。
そのとたんに姿がぱっと消えた。
「ねぇ、見た? 猫の毛並みの色。何色だった?」
「うんと、こげ茶っぽかったような黒かったような」
「私には模様も含めて次々と変化しているように見えたんだけど」
澤田君は考えこんでから、また「うーん」と唸っていた。そして口を開く。
「ねぇ、栗原さん。色が変化しても、その猫は一匹だと思う?」
澤田君の質問の意味がよくわからなかった。
「私には一匹にしか見えなかったけど?」
澤田君は瞳の奥深くで何かを考えていながら、私を見ていた。
「ねぇ、栗原さん。少し休憩しない?」
「休憩?」
「うん、ずっとここを出ることばかり考えて、一喜一憂してちょっと疲れたでしょ。僕も少し休みたいんだ」
「うん、別にいいけど」
澤田君は何かに気づいたんじゃないだろうか。
慎重になったというのか、初恋の人の話を訊いたら、急に態度が変化した。
それに何かあるのは伝わってくるのに、何も話してくれない。
「ああ、この椅子が使えたら、座れるのにな」
私がヤキモキしているというのに、澤田君はマイペースに事を運んでいる。
何も触れるはずがないのに、澤田君は丸椅子に向かって手を伸ばす。
そして「うわぁ」と声を上げていた。
「どうしたの?」
「椅子、椅子が」
「椅子がどうしたの?」
澤田君は両手で二つに重なった丸椅子を掴んでいた。
急に静かになって気まずい空気が目に見えるようだ。
初恋の人の話は私から気軽に触れてはならない何かを感じる。
「あのさ」
頭に何も考えが浮かんでないのに、その場を取り繕うだけの声がでた。
澤田君も私に視線を向け、迷いがあるようで口に出来ないまま口元を微かに震わせている。
暫く張り詰めた冷たい空気を感じたけど、そこに何かが割り込んできた気配がする。
「あっ、今、足に何かが触れた」
澤田君が言うや否や、突然「にゃー」と足元で甲高い声がした。
それがきっかけで辺りの空気が一気に柔らかくなった。
「えっ、猫? 猫がいるの?」
私たちは辺りを見回す。かなり近くで聞こえたように思ったけど、足元を見ても猫の姿が見えない。
「にゃーお、にゃーお」
私は鳴き真似をするも、手ごたえはなかった。
「あっ、居た」
澤田君が指を差して声を上げた。
そこは焼肉屋があるところだ。
その店の前の隅っこには、外で待つ客のために、赤い丸椅子が重ねて置かれていた。
その上にちょこんと座ってこっちを見ていた。
「何も見えなかったのに突然ぱっと宙に現れて、その椅子に着地したように見えたんだ」
澤田君が説明する。
「もしかしたら、さっき足元で声が聞こえたのは、私たちの近くを横切ってたってことかな」
「多分そうだろうね。この空間の中では見えなかったんだ」
「それじゃ猫には私たちが見えるのかな」
私はそっと猫に近づいた。
不思議なことにその猫の毛並みの色が一つに定まって見えなかった。
「ねぇ、澤田君。この猫の毛並みだけど、何色に見える?」
澤田君が近くで見ようとすると猫は椅子からジャンプして降りてしまった。
そのとたんに姿がぱっと消えた。
「ねぇ、見た? 猫の毛並みの色。何色だった?」
「うんと、こげ茶っぽかったような黒かったような」
「私には模様も含めて次々と変化しているように見えたんだけど」
澤田君は考えこんでから、また「うーん」と唸っていた。そして口を開く。
「ねぇ、栗原さん。色が変化しても、その猫は一匹だと思う?」
澤田君の質問の意味がよくわからなかった。
「私には一匹にしか見えなかったけど?」
澤田君は瞳の奥深くで何かを考えていながら、私を見ていた。
「ねぇ、栗原さん。少し休憩しない?」
「休憩?」
「うん、ずっとここを出ることばかり考えて、一喜一憂してちょっと疲れたでしょ。僕も少し休みたいんだ」
「うん、別にいいけど」
澤田君は何かに気づいたんじゃないだろうか。
慎重になったというのか、初恋の人の話を訊いたら、急に態度が変化した。
それに何かあるのは伝わってくるのに、何も話してくれない。
「ああ、この椅子が使えたら、座れるのにな」
私がヤキモキしているというのに、澤田君はマイペースに事を運んでいる。
何も触れるはずがないのに、澤田君は丸椅子に向かって手を伸ばす。
そして「うわぁ」と声を上げていた。
「どうしたの?」
「椅子、椅子が」
「椅子がどうしたの?」
澤田君は両手で二つに重なった丸椅子を掴んでいた。



