私は澤田君に近づいて彼の肩に乗ろうとする。
「もう少し、低くして、首を前に屈めて」
「ちょっと待って、これ以上は苦しくて」
お互い「あっ」「おっ」と声を出し合い、ようやく私が肩に乗れた。
「それじゃ、立って」
私の掛け声で澤田君は踏ん張って立ち上がろうとするが、どうも上手く立ち上がれない。
大きく澤田君が動いた時、バランスが上手く取れなくて気がつけば前のめりになって私は倒れこんでいた。
「あー、ちょっと危ないじゃない」
慌てて澤田君から離れる。
「ごめん。上手く行かなくて」
澤田君はぎこちなく立ち上がり、ヘラヘラとして笑っていた。
澤田君だけを責められない。
私も重かったかもしれない。
でも男の子だからちょっと私より力があって支えてくれると期待した。
「もう、仕方ないな。あっ、そうだ」
ふと閃いて、ポケットからコインを取り出した。
五百円玉だ。
それを力強く天井に向けて放り投げた。
それは途中で強く何かに当たり、パーンとはじけて地面に落ちた。
天井にも見えない壁がある事がこれで証明された。
「あーあ」
悔しさの声が虚しく漏れた。落ちたコインを回収し、澤田君にちらりと視線を向けた。
「見えないけどもこれで完全にキューブの中に僕たちは居ると考えられる」
澤田君は冷静に分析していた。
「どうしてこんな事が」
「僕にもわからない」
「どうやったらここから出られるの?」
パニックになりそうな気分をかろうじて私は押さえ込む。
叫んだところでどうしようもないけど、澤田君が意外にも落ち着いていたお陰でなんとかそれに見習った。
頼りない印象だった澤田君は気を確かに持って辺りを見ていた。
「こんな状況でも、匂いが入ってくるってどういうことだろう。あっちは微かにお好み焼きの匂いがするんだ」
澤田君はもう一度確かめようとお好み焼き屋に近づいて鼻をひくひくさせた。
私も釣られて側に寄って匂いを嗅ぎ取る。
「本当だ、お好み焼きを焼いてる匂いがする」
鉄板の上に焼かれているお好みを想像し、ソースを刷毛でぬりこんで、そこからこぼれたじゅーっと焼ける音が聞こえてくるようなそんな気もした。
想像すると無性にお腹がすいてきた。
「でも隣の焼肉屋は何も匂わない」
澤田君は犬のように激しくクンクンしていた。
「焼肉の方が匂いはきついのに、こっちは匂わないね。なぜなんだろう」
私がそういうと澤田君はズボンのポケットからスマホを取り出した。
操作を繰り返しながら、何かを考え込んでいた。
「ネットはやっぱりできない。電話も掛けられない。だけど、時計はそのまま動いている。今は十一時八分になっている」
私もスマホを確かめたかったけど、家に置いてきてしまった。
財布すら持たず、お金を無造作にポケットに突っ込んできただけだ。
「時は普通に動いているってことなの?」
「多分だけど、僕たちは時空のポケットにはまり込んだのかもしれない。この世界は見えてるけど、実際そこに居なくて、別の空間にいるってことなのかも」
澤田君はある程度把握したようだけど、私には分かったようで分からない。
「元に戻れるの?」
不安な面持ちで訊いてしまう。
「もう少し、低くして、首を前に屈めて」
「ちょっと待って、これ以上は苦しくて」
お互い「あっ」「おっ」と声を出し合い、ようやく私が肩に乗れた。
「それじゃ、立って」
私の掛け声で澤田君は踏ん張って立ち上がろうとするが、どうも上手く立ち上がれない。
大きく澤田君が動いた時、バランスが上手く取れなくて気がつけば前のめりになって私は倒れこんでいた。
「あー、ちょっと危ないじゃない」
慌てて澤田君から離れる。
「ごめん。上手く行かなくて」
澤田君はぎこちなく立ち上がり、ヘラヘラとして笑っていた。
澤田君だけを責められない。
私も重かったかもしれない。
でも男の子だからちょっと私より力があって支えてくれると期待した。
「もう、仕方ないな。あっ、そうだ」
ふと閃いて、ポケットからコインを取り出した。
五百円玉だ。
それを力強く天井に向けて放り投げた。
それは途中で強く何かに当たり、パーンとはじけて地面に落ちた。
天井にも見えない壁がある事がこれで証明された。
「あーあ」
悔しさの声が虚しく漏れた。落ちたコインを回収し、澤田君にちらりと視線を向けた。
「見えないけどもこれで完全にキューブの中に僕たちは居ると考えられる」
澤田君は冷静に分析していた。
「どうしてこんな事が」
「僕にもわからない」
「どうやったらここから出られるの?」
パニックになりそうな気分をかろうじて私は押さえ込む。
叫んだところでどうしようもないけど、澤田君が意外にも落ち着いていたお陰でなんとかそれに見習った。
頼りない印象だった澤田君は気を確かに持って辺りを見ていた。
「こんな状況でも、匂いが入ってくるってどういうことだろう。あっちは微かにお好み焼きの匂いがするんだ」
澤田君はもう一度確かめようとお好み焼き屋に近づいて鼻をひくひくさせた。
私も釣られて側に寄って匂いを嗅ぎ取る。
「本当だ、お好み焼きを焼いてる匂いがする」
鉄板の上に焼かれているお好みを想像し、ソースを刷毛でぬりこんで、そこからこぼれたじゅーっと焼ける音が聞こえてくるようなそんな気もした。
想像すると無性にお腹がすいてきた。
「でも隣の焼肉屋は何も匂わない」
澤田君は犬のように激しくクンクンしていた。
「焼肉の方が匂いはきついのに、こっちは匂わないね。なぜなんだろう」
私がそういうと澤田君はズボンのポケットからスマホを取り出した。
操作を繰り返しながら、何かを考え込んでいた。
「ネットはやっぱりできない。電話も掛けられない。だけど、時計はそのまま動いている。今は十一時八分になっている」
私もスマホを確かめたかったけど、家に置いてきてしまった。
財布すら持たず、お金を無造作にポケットに突っ込んできただけだ。
「時は普通に動いているってことなの?」
「多分だけど、僕たちは時空のポケットにはまり込んだのかもしれない。この世界は見えてるけど、実際そこに居なくて、別の空間にいるってことなのかも」
澤田君はある程度把握したようだけど、私には分かったようで分からない。
「元に戻れるの?」
不安な面持ちで訊いてしまう。



