公爵の娘と墓守りの青年

「いやいや、俺は変な奴じゃないって。俺が変な奴だったらビアンもだろ?」

勢い良く首を左右に振り、カイが即座に否定した。

「何故、俺が変なんだ?!」

「ビアンが人の姿になれるのに狼の姿だから」

「その理由はさっき話したし、お前と初めて会った時にも話しただろ!」

夜であることを忘れて、ビアンは声を上げた。
心外だ、と言いたげな顔だ。

「――とにかく。俺は変な奴じゃない」

「いや、お前が変な奴で、常識があるのは俺だ」

「違うって。常識があるのは俺だって」

「――どちらも同じだと思いますよ、俺としては」

カイとビアンはお互いがお互いを否定し合っていると、更に横から誰かが口を挟んだ。
言い合っていたカイとビアンは、弾けるように立ち上がり、声の方を向いた。
カイはカエティスの墓に立て掛けてあったシャベルが、いつでも構えられるように手をかける。
ビアンもいつでも相手の喉を咬みきれるように牙を剥く。

「あ、驚かせちゃいましたか? すみません」

カイとビアンの反応に驚いて、声の主は恐縮そうに謝った。
月の光でカイは相手が誰なのか、ようやく分かった。