叔父と従兄からどうにか逃げることが出来たリフィーアは屋敷を後にした。
屋敷から少し離れたところで安堵の息を洩らした。

「もう……。どうして、私を公爵にしたがるのよ、二人とも……」

眉を寄せて、リフィーアは両親が眠る墓地に向かいながら呟いた。
生まれてすぐ両親を事故で亡くし、孤児になってしまったリフィーアを叔父の家族はとても優しく、家族のように接してくれる。
公爵の娘としてではなく、庶民として一人で暮らしているリフィーアを心配して、夜中でも顔を出してくれるほどだ。
なのだが、物心ついた頃から「父の後を継いで、公爵になれ」と同じことを何度も、何度も言われ続けている。
最近は、回数が多くなっていることもあって、あまり叔父の屋敷に行きたくないのが本心だ。

「……だから、最近、お屋敷には行きたくないのよ。もう……!」

道端にあった小石を蹴って、リフィーアは尚も呟く。

「今はただの一般人なんだから、私が公爵になったってしょうがないじゃない」

蹴った小石がころころと転がっていくのを目で追いながら、また呟く。無意識に頬も膨らませる。
最初は子供だったので、よく分からなかったが、十六歳になった今なら「前公爵の娘」だから後を継ぐのは理解出来る。だが、今は公爵家でも何でもないただの庶民だ。
そのように手続きをしたのは、叔父だ。
後になって言われてもお門違いだ。