「ああ。またな――と、私が言うと思うか? カエティス」
帰ろうとするカエティスの肩をしっかり掴み、クレハノールは笑顔で言った。
「あー……やっぱり無理だったか。気付かれないと思ってたのに」
唇を尖らせ、カエティスは観念したようにクレハノールに向き直った。
「ふっふっふ。私を甘く見るなよ、カエティス。十歳といえど、私はウィンベルク公爵になるのだからな」
ニヤリと笑みを浮かべ、クレハノールは胸を反らす。
「やっぱり君には勝てないなぁ。だから、負けでいいよ」
「よくない。私は真剣にお前と勝負がしたいんだ、カエティス」
勝負しろ、と言うクレハノールに、カエティスは困ったように頭を掻いた。
「俺、弱いし、剣を握ったことがないんだけど……」
「弱いは嘘として、何だって? 木刀も握ったことがないのか?!」
「いやいや、嘘じゃないんだけど。木刀もないよ。木の枝や薪ならあるけど」
こっくりと頷き、カエティスは答えた。
「そんな馬鹿なことがあるか。本を読むのも好きだが、身体を動かすのも好きなのは知っているんだぞ」
ニヤリと笑い、クレハノールは木刀を構える。
「――という訳で、勝負だっ」


