公爵の娘と墓守りの青年


「……読めん。この国の言葉ではないな。何て書いてあるんだ?」

「いやいや、この国の言葉だから」

「そんな馬鹿な。私の持つ辞書には載っていないぞ」

真顔で言うクレハノールに、カエティスは溜め息を吐いた。

「君の持つ辞書にもちゃんと載ってるから。とにかく。この本は、クウェール王国の歴史、クウェール王国になる前の歴史が載ってるんだよ」

「クウェール王国の歴史と、クウェール王国になる前の歴史? それを読んでどうする?」

両腕を組み、クレハノールは眉を寄せる。

「……うん。ちょっと気になることがあってね。調べたら、俺のこの目のことが分からないかなって」

水色の右目と銀色の左目に指差し、カエティスは力なく笑う。

「カエティス……。別に気にすることはないと思うぞ。お前のその異なる目、とても綺麗な色をしている。街の馬鹿な大人達の言葉など無視しろ」

「別に街の大人達に目のことで言われたことないし、むしろ、優しいよ。時々、心配して果物とかくれたりするし、わざわざ家に来てくれたりするよ。まぁ、時々、先生に追い払われてるけど」