公爵の娘と墓守りの青年


「……本当はカエティスが封印してるものが奥にありますって、流石に言えないよなぁ」

ぽつりと呟き、レグラスは閉めた赤い扉に手を触れた。





「カエティス、私と勝負しろ」

いきなり名を呼ばれたと思ったら、いきなり勝負を申し込まれた。
意志の強い声音の少女から勝負を申し込まれたのはこれで何度目だろうか。
カエティスは溜め息を吐きながら振り返った。

「……クレハ、何度も言ってるけど、勝負する気はないからね」

分厚い本を三冊抱えたまま、カエティスは少女に言う。

「この街で、十歳の私と同じ歳、年上の男で戦っていないのはお前だけなんだ」

だから勝負しろ、と少女は尚も言う。

「クレハ……いや、クレハノール。何度も言ってるけど、俺、今、三冊の厚い本を持ってるんだよね。だから、無理だよ」

「少しの間、地面に置けばいいだろう?」

「街の図書館から借りたものを地面に置けないよ。この本、珍しいんだよ」

そう言いながら、カエティスは図書館から借りた本の背表紙を少女――クレハノールに見せる。

「…………」

眉間に皺を作り、クレハノールはじっとカエティスが見せる本の背表紙を凝視する。