公爵の娘と墓守りの青年


イストの剣が当たる前に青年の身体が消える。

「――何っ!?」

剣が空を切り、イストはたたらを踏む。
慌てて、イストは青年の姿を探し、あることに気付いた。

「ウェル様っ、公爵令嬢っ」

声を上げながら、イストはウェルシール達の元へ駆けた。


切迫したイストの声に、ウェルシール達は驚き、首を傾げる。

「イスト、どうしたの?」

ウェルシールはこちらに駆けてくるイストに声を掛ける。
その時、背後から声が聞こえた。

「……クウェール王家の血と、ウィンベルク公爵家の血……」

言葉の意味に気付き、ウェルシールは素早く振り返り、細身の剣を鞘から抜いてリフィーアを庇うように立つ。
庇われたリフィーアも身を強張らせ、相手を窺う。

「……そう簡単にはやられませんよ。僕もリフィさんも」

剣を構え、ウェルシールは背後に現れた青年を見据える。

「ウェル様っ」

同じく切迫した声で、イストとエルンストがウェルシール達の前に立つ。
青年はイスト達兄弟には構わず、ウェルシールとリフィーア目掛けて黒い光を放った。
ウェルシールはリフィーアを守るように、イスト達は主君達を守るように剣を構え、黒い光を防ごうとする。
飛んで来る黒い光がゆっくりとやって来たように、後ろで守られているリフィーアには見えた。
その黒い光がイスト達に当たるよりも前に、赤い影が間に入り、小さな爆発音が響き、煙が舞う。

「……え?」