公爵の娘と墓守りの青年




マティウスとウェルシールが会う少し前。
マティウスは自分が住むカエティスの都の墓地の奥にいた。
墓地の奥には都の長はもちろん、一般人は入ることを許されていない。
許されているのは、クウェール王国の国王とウィンベルク公爵家の当主。そして、カエティスの都の墓守りのみだ。
許されているとはいえ、普段は入らないマティウスだが、今日は違った。
今日はどうしても会わないといけない人がいる。
クウェール王国の若き国王ウェルシールに会う前に、どうしても。
その会わないといけない人物はのんびりと墓地の奥で、シャベルを布で拭いていた。

――相変わらず、暢気な人だ。

苦笑にも似た笑みを浮かべ、マティウスはその人物に近付く。
相手もこちらに顔を向け、穏やかに微笑んできた。

「いらっしゃい、マティウス君。君がここに来るなんて珍しいね」

この墓地に足を踏み入れた時から来た理由に気付いているだろうに、そんなことは微塵も見せない墓守りにマティウスは苦笑する。

「貴方も人が悪いですね。私がここに来た理由を知っているくせに」

「……そりゃあ、代々のウィンベルク公爵が同じ理由で来ていたからね。それはしょうがないことだけど、時々はその理由とは別の理由で来て欲しいよ、リゼル君みたいに」