抱き着くイストの腕の中でじたばたと手を動かし、ウェルシールは懸命に離れようともがく。
「イスト兄さん、何をしてるんですか。ウェル様が嫌がってるではありませんか」
両手を腰に当て、エルンストが声を上げる。
「いや、だって、ウェル様が素晴らしいんだよ! こんなに立派になって……」
何処かの前世が王様だった人にも見習って欲しいよ、と心の中でイストは呟き、ウェルシールから離れた。
「はいはい、分かりました。イスト兄さん、そのお話は後でしっかり聞きますから。ウィンベルク公爵のお屋敷に入りますよ」
適当に兄をあしらい、エルンストは馬車の窓から見えるウィンベルク公爵の屋敷に目を向けた。
「……静かだね」
ウィンベルク公爵の屋敷の大きな庭を見つめ、ウェルシールは呟いた。
「ウィンベルク公爵家は代々、使用人は数人しか雇わず、ご自分達で家事などをなさってるそうですよ」
ウェルシールの呟きを聞いたイストが説明した。
「……珍しいですね。イスト兄さんが説明するだなんて……。しかも、正しい内容を」
驚きの表情で、エルンストは兄を見つめた。
「お兄ちゃんもやる時はやるんだよ、エル君」


