公爵の娘と墓守りの青年


立ったままビアンは首を横に振る。

「……この大陸では、人間を宿主にして命を吸い、死した宿主を食べると言い伝えられている魔狼が、人間を宿主にしていない?」

否定するビアンにエマイユはその大きな青い目を、これでもかというくらいに見開いた。

「強い魔力を持っているカエティスなのに?」

「元々、俺は宿主を持つ気はなかった。そんなことしないで、とっとと食べた方が早いだろ」

当然と言わんばかりの表情で、ビアンは自信に満ちた声で答えた。

「た、食べる気だったの? カエティスを」

ネレヴェーユは驚きに目を見開いた。相棒が食べる気だったとは、恋人としては複雑な心境だ。

「カエティスがここにいるという噂を聞きつけ、そのためにここに来たのだが、あいつに挑んで負けた」

――色々な意味で。
そう続けず、ビアンは拗ねたような表情で呟いた。

「あぁ、君も負けた口か。トーイだった時の私も初めて会った時にカエティスに負けたんだよね。分かるよ、うん。で、結局、食べることをやめた君は宿主にしなかったのは何故?」

「興味深いヤツだから、暇潰しに見るのもいいかもなと思っただけだ。さっきも言ったが、宿主にする気は元々なかったからな」

「だから、相棒になったのですか?」