悠真が今、私のこと好きって――。

 彼は今、震えている。
 今にも泣きそうな、そんな表情をしている。

 全力で気持ちを伝えてくれているのが分かる。
 私も全力で、今の思いを伝えなきゃだよね?

「悠真、私ね、悠真と心が離れるの嫌で、ここ数日上手く話せないのがすごく悲しくて、そしてね……」

 言いたいことが山ほどあるのに、上手く言葉に出来ない。

 泣きたくもないのに。
 あぁ、もうダメ!

 次々と私の頬を伝っていき、手で拭っても拭ってもあふれてくる涙。感情と共にあふれてきて、もう止まらない。

「泣くなよ!」

 泣くのを我慢していたっぽい悠真も私につられたのか、私に負けないぐらいに涙を流す。彼は泣きながらカバンから真っ白なフェイスタオルを出して、彼自身の涙を拭くのよりも先に私の涙を拭ってくれた。

「ありがとう!」

 ずっとずっと、二人で泣いた。
 しばらく泣いた。

 溜まっていた涙をすべて出したと思う。
 落ち着いてきた時、彼は言った。

「結愛は、陸のことが……」

「えっ?」

「陸のことが、好きなんだよね?」

 私の瞳をじっと見つめてくる悠真。
 その目に吸い込まれちゃいそうなぐらいに強い目力で。

「好きだった……かな? うん、陸くんのことが、好きだった。いつも彼のことを考えていたし。でも好き “だった”。過去形なの」

「過去形? でも、あの時、抱き合っていたし……好き同士だから抱き合っていたのかなって」

「あ、あれね、なぐさめてもらってたの。原因はね、悠真だよ!」

「はっ? なんで俺?」

「桃音ちゃんと悠真がいっぱい仲良くなったら嫌だなって思ったの」

「えっ? なんで?」

「だって、悠真のこと……。ってか悠真こそ桃音ちゃんと付き合うとか言ってたのに、私に告白して、いいの?」

「いいの! あっ、良くないか。二股みたいだな。っていうか、なんで俺が原因?」

 悠真の目を見つめながら、私は言った。今回は目を合わせて、きちんと彼と向き合って。

「……あのね、悠真、私も悠真のことが、好き」 

 悠真の目が見開いている。
 口もぽかんと開いていて、彼の動きが完全に止まった。


「なんか、夢かな? とりあえず、結愛のこと、俺もなぐさめていい?」

「えっ? なぐさめる? もう涙は枯れて、出てこないよ」

「そんなの関係ない!」

 いきなり悠真が抱きしめてきた。
 抱きしめてきたと言うより、包んでくれた、かな?

 抱きしめられた感触。
 他の人たちとは、あきらかに違う。

 お母さんに抱きしめられた時は、嫌な気持ちが蒸発していって、安心した。

 陸くんには、二度抱きしめられていて、海で抱きしめられた時は、頭の中がすでに悠真でいっぱいだった。

 一度目は、私が陸くんを避けた時に学校で。
 その時は、私の心臓のドキドキがすごかった。すごかったけれど……。

 今はもっとドキドキがすごいし、安心する気持ちもあるし、なんだか胸がギュッとなって、また涙が出てきそうな切なさもあるし。

 色んな感情が入り乱れていて、詰まっている感じがする。

 その中で一番感じるのは、温かい気持ち。

 そして、他の人とあきらかに違うのは、悠真と私は今、ひとつになっている気がする。

 ――これが、本当の恋、なのかな?

 小さい頃の自分、まさか将来、悠真が恋の相手になるなんて、一ミリも思わなかったよね。

 悠真が一方的に私を力いっぱい両手で抱きしめてくれていたけれど、私も彼の後ろに手をまわして、両手でぎゅっとしてみた。すると悠真は私の後ろにまわしていた右手を私の頭に乗せて、優しくなでてくれた。

 ドキドキして、とても幸せ!

 身長差があるから私は見上げて悠真の顔を見た。

「ねぇ、夢じゃないね?」
「うん、結愛の感触、ちゃんとある。夢じゃない」

 私は自然に満開な笑顔になる。
 悠真も同じような笑顔を返してくれた。