教室には誰もいなかった。
 ほっとした。

「はぁ、良かった!」

 思わず心の声を呟いてしまう。

 自分の机の中をあさり、教科書を取り出している最中の陸。

「ん? なんか言った?」
「なんも言ってない」

 彼は教科書をカバンに入れている。

「よし、もう悠真は帰るの?」

 陸が聞いてくる。

「いや、俺、また部活に戻るから」

「僕も練習したいから、部活戻ろうかな……あぁ、でも、なんかそんな気分じゃなくなったな。帰ろうかな? うん、帰るわ!」

 早く、早く帰って本当に。

「分かった。じゃあ、また明日な!」
「おぅ、またな、悠真!」

 陸が教室から出ていき、ほっとした。
 ほっとしたけど、もしばったりふたりが廊下で出会ったら……。

 まだ油断は出来ない。

 静かにバレないように、二階にあるこの教室から陸が玄関に着くまで距離をあけてついていく。ふたりは出会うことなく、陸は無事に玄関へ。

 はぁ、今度こそ大丈夫かな? 
 結愛は今、部活で美術室にいるのかな?

 今いる玄関から、廊下の一番端まで歩くと、美術室がある。

 そっと覗いてみると、結愛が絵を描いていた。

 とりあえず俺は、サッカーなんてする気持ちになれずに、部活に戻らず陸と結愛がこれから会うはずだった教室に戻ってみた。

 窓から外を見る。普段自分がいるサッカー部の様子が見える。

 他のサッカー部のみんなはシュート練習をしていた。

 陸、時間さえあれば誰よりもサッカーの練習をしているのに、そんな気分じゃなくなったとか言って帰るのが珍しい。結愛に呼び出されて、何か期待していたのかな……。

 結愛、これからここに来るんだよな。

「陸、用事出来たから帰ったわ」って言っても、後から嘘ついたことバレそうだし。

 でもなんか結愛にも言わないと、明日結愛と陸がなんだかんだ学校で会話をして、確実にバレそう。

 どうしようかな。
 何も思いつかない。

 ただの勢いでこんなことをやってしまったことに後悔する。

 今からここに来る結愛。
 正直に話そうかな。