その日、ふたりの動向をいつもよりも観察した。

 早めに学校に着く。まだふたりは来ていない。先に陸が登校してきて、教室に入り、席に着く。

 いつもと変わらない光景だ。

 しばらくすると、誰かに呼ばれたみたいで、廊下に出ていく。

 陸の視線の先には結愛がいた。

 何か話している。告白か? でもメッセージでは放課後って書いてあった。今話しているのは放課後に告白するための待ち合わせ場所の約束だとか、そんなのかも知れない。

 陸に向かって話をする結愛の表情にモヤモヤした。


 未来の自分からのメッセージのおかげで、これから起こることが分かっているのに何も出来ないことにもモヤモヤした。

 ついに放課後になった。
 陸と俺は部活のため、グラウンドへ行く。

 サッカー部のミーティングが始まる。それが終わると、普段はトレーニングとかやるんだけど、陸は参加せずに校舎へ向かっていった。

 迷わず、陸の後をついていく。

 なんだか、探偵みたいだ。

 この方向……。
 陸は早歩きで教室に向かっていく。

「ちょっと待って!」

 行かせたくなくて、気がつけば俺は陸を呼び止めていた。

 陸が肩をビクッと震わせて振り向いた。

「わぁ! びっくりした。悠真だ。どうした?」

 自分がたった今起こした行動は、自分でも予想していなかったことだから、次の言葉が見つからない。

 どうしよう。

 このまま行かせたくない。
 結愛に告白させたくない。

「こ、これからどこ行くの?」
「ん? 教室だけど」
「何か用事あるの?」

 したことのない、陸への質問。
 今、必死に続けている。

「えっ? なんか結愛ちゃんが用事あるから、部活終わったら教室に来てって」

 陸から“ 結愛 ” って名前を聞いた瞬間、イラッとしてしまう。彼が彼女の名前を口にするだけで。
 
 今、彼が教室に行ってしまえば、ふたりは付き合ってしまう運命なんだ。

 恋人になってしまうんだ。

 本当に今ふたりを会わせたくないと思った。

「あぁ、結愛ね『やっぱり何でもないわ! 教室来なくて大丈夫だよ』って陸に伝言しといてって言っていたわ」

 こんなこといきなり言われても、ウソかもってあやしむかも。

「……そうなんだ、分かった! 伝えてくれて、ありがとな!」

 意外にもあっさり信じた様子。

 でも、陸は再び教室に向かおうとする。

「結愛、いないって! 帰ったよ!」

 俺はあせった。

「あぁ、今聞いたよ、それ。教室に荷物があるから取りに行くのさ」

 これで教室に結愛がいれば、ウソついたことがバレるし、ふたりが付き合う展開になってしまう。

 ――どうか、いませんように!

 心の奥底から願った。
 願うしかなかった。

 陸が勢いよく教室のドアを開ける。