雨が今すぐに降りだしそうなくもり空。
 その影響で、薄暗くなっている学校のろうか。

 私は、自分がいつも過ごしている教室の前にいる。
 この教室の中には今、好きな人がいるの。

「放課後、話したいことがあるから、教室にいてください」って、私が彼にお願いをしたから。

 数センチだけドアをそっと開ける。

 彼と顔を合わせないように。
 姿を見ないように。

「ドアの前まで来てもらえる? 絶対にドアを開けないでね!」

 彼の動く気配がする。
 
 ドアの前に来た気配。
 私の心臓の音がはやくなる。

 何度も気持ちを彼に直接伝えようとしたけれども、目を合わせるだけで、伝えられずに緊張してしまうから。

 だからこうやって伝えることに、決めた。

 あぁ、ドキドキする。緊張しすぎて立てなくなり、ドアに背中をつけてしゃがみ込んだ。

 ゴトンと音が聞こえて、なんとなく、彼も今ドアに背中をつけて、同じ姿勢をしている感じがした。

 このドアがなければ、彼と私の背中は今、くっついているんだ。こんなにも近くにいる。そんなことを考えると、余計に胸が高まる。

 気持ちを落ち着かせようと、ゆっくり深呼吸した。
 そして思いを、言葉を、彼にぶつける。

「ずっと、好きでした。付き合ってください」

……。

しばらく彼は無言で、ただ音のない時間が過ぎていく。

 ――返事を考えているのかな?

「おう、いいぞ!」

「……!」

 はっ? えっ? ちょっと待って?   
今、想像していなかった声が!



 ――うそでしょ? 何で悠真がここにいるの?

 どうやら私、綾野結愛(あやのゆあ)は、相川陸(あいかわりく)くんに告白しようと思ったのに、幼なじみの瀬川悠真(せがわゆうま)に告白をしてしまったようです!