願書の提出も迫った11月。
とある日曜日、私は塾帰りに気分転換に近くの公園に寄った。
行き詰ったり、考え事をするときはいつもここに来る。
公園の高台にあるベンチに座ってこの街を眺める。

(ん??)
段になっているこの公園の一段下から
リズミカルに聴こえたその音がバッティングの
音であることはすぐに分かった。


人気の少ない夕方のこの公園に来る人はあまりいない。
来たとしても、近所の犬の散歩の人か、遊びに来る子供くらいだ。
(颯斗でもいるのかな)
そう思って、木陰から覗いてみる。


そこにいたのは、晴人だった。
11月だというのに汗ばみながら必死にバットを振っている。
近くのベンチにはノートが置かれていた。
野球ノートだろうか。
練習に集中している晴人に気づかれないように開く。
そこには、
’桜岡に入って甲子園を目指す'
と書かれていた。
(この人本気だったんだ。)
なぜか少し罪悪感を感じた。
こんなに頑張っている人がいるのに
私はそれをバカにしていた気がした。


家に帰ってからもその気持ちが消えることはなかった。
私は高校に何をしに行くんだろう。
そんなことを考え出したら止まらなかった。

「ねぇ先生、まだ志望校の変更ってできますよね?」

「できるけど、もう一ランク上、目指す??」

「私桜岡にしたいんです、」

「え、、、今のところよりも10点も偏差値低いのよ??」

「桜岡に行ってやりたいことがあるんです。」

「それは賛成できないかな、あなたはもっと上を目指すべきよ。」

「先生、私高校に行く意味が分からなかったんです、
 でも桜岡に行けたら、私変われる気がするんです。」

「うーん、ゆっくり考えましょう」


担任の先生は反対だった。
けれど、晴人が公園で練習をしてるのを見たあの日から
私の中で何かのピースがはまった気がしました。
願書の第一志望は、、、、



桜岡高校   で提出をした。