雨宮晴人。
私が一番大好きで一番応援してる人。
そして、私に野球の世界を教えてくれた人。

晴人と出会ったのは、中三の夏の終わりだった。
夢も目標もなかった私は、どこの高校に行っても変わらないと思っていた。
中学からの友達である麗香に誘われて近くにあった桜岡高校の文化祭に行った。

どこを見ても何を見ても普通の高校。
職員室の前にはたくさんの運動部の賞状やトロフィーがあった。
’野球部 高校野球県大会準優勝’
(へー、野球強いんだ)
何気なく目に入ったその文字を見つめる。
よみがえるように思い出された景色。
昔、幼なじみの颯斗と徳信がやってたのをよくグランドの隅で見ていた。
あの頃の私はもういない。
私には関係のない世界、、、
そう思って、麗香に帰ろうと言いに行こうと思った時だった。

「野球好きなの?」

「え?」

「今トロフィー見てたから。」

「あー、懐かしいなって思って。」

「この大会のトロフィー、7年前のなんだ。」

「そんなに前?」

「あ、今も十分強いけどベスト8止まりなんだ。
 だから四強に入ったのは7年前が最後。」

「確かに、そのくらい前だったかもね。」

「俺、あの試合、笠野球場で見てたんだ、最後延長十二回で南陵学園が
 サヨナラホームラン打って、桜岡が負けるところ。」

「私も見たよ、選手が負けたのにみんなで天を仰いで
 さわやかに笑ってた、主将が悔いはないです、ってインタビューで
 言っててすごいって思った。」

「やっぱり野球好きなんだね、」

「今は、別にかな。」

「俺、今決めた、ここに入る。」

「え、いま?」

「俺、絶対もう一度桜岡を四強にしたい」

「なるほど??」

「えーっと、君名前は?」

「月野日葵です。」

「日葵ね!俺は、雨宮晴人!」

「晴人、、」

「よし、日葵!俺は絶対優勝する。」

「だいぶ大きな夢な気がするけど?」

「いや、いける!だから一緒にここの高校に行こう。」

「私も??」

「あったりまえ!!」

「面白い人、(笑)
 よし、その船私も乗った。私もここ受ける。」

「月野日葵って苗字と名前の雰囲気真逆だね、月と太陽」

「そんなこと言ったら、雨宮晴人だって雨と晴れじゃん」

「たしかに!!俺ら似た者同士だな」

「そうだね」

「じゃ、半年後入学式で。」

「絶対受かってよ!」

「おう!!」

そんな会話をして私たちは分かれた。
けれど、私は行くか迷っていた。
桜岡は私にとっては少しレベルを下げた高校だった。
もとは行くつもりなんて全然なかった。
夏休み明けの志望校調査の日。
私が桜岡高校の名前を書くことはなかった。