僕は記憶力がいい。

 一回読めば全部の文章を覚えてしまう。
 あのノートの、義弟バージョンの内容、全て覚えてしまった。

 もしも、実行すれば、おとうと以上の感情を、あかねは僕に対して持ってくれるのだろうか?

 ノートに書いてある内容を僕があかねに……。
 想像するだけでドキドキする。

 でも、もしも恋愛対象として意識をしてくれるようになるのなら――。

「よし、実行してみよう!」


***

 日曜日、早速チャンスは訪れた。

「今日、私、仕事で帰り遅くなるから、ご飯なんか買って食べてっ!」

 そう言って義母さんがお金を置いていってくれた。

 この状況は!

 ノートに書いてあったシチュエーションを思い出す。↓これ。

・一緒に料理をするふたり。
料理が上手な私に向かって
「僕以外のやつに、ねえちゃんが作った美味しい料理、食べさせたくねえ! 好きな人の料理を独り占めしたい」とさりげなく告白される。


「ご飯、どこで買う?」

 ふたりきりになった時、あかねに質問された。

「つ、作ろうか! あか、ねの手料理が食べ……」

 僕はしどろもどろしながら提案しようとしていた。

「あ、岳が作ったカツ丼食べたい!」

 僕の言葉をさえぎり彼女は言った。

「うん、僕、作るね!」

 そう返事した。
 違う、そうじゃない!

 間違えた!

 けれど、あかねには逆らえない。
 逆らえないのは“好き”の弱点。

 でも、そんな逆らえない自分、好き。
 
 仕上げをさりげなくやってもらう感じでもいいかな?

 最後に卵を溶いてもらって、それをフライパンに入れてもらったり、なんか、あかねが作った感じをだせれば。

 冷蔵庫を覗いたけれど、卵以外の材料がなかった。

 ひょいとあかねも横に来て覗いている。

「とりあえず、買い物行く?」

 僕はそう言いながら、冷蔵庫を閉めようとした。

「そうだね! あっ、待って!」

 彼女の表情は何かを思い出したようだ。

「あかねも買うものチェック?」

「ううん。冷蔵庫が涼しくて気持ちいいの」

 あかねが冷蔵庫の冷気で涼しさを感じてくれている間に、僕は買うものをメモした。

 自転車に乗って、近くの大型スーパーに来た。

「私、お菓子見てくるね!」

 スーパーの入口であかねはそう言い、すぐにお菓子コーナーへ。
 僕はメモを見ながら材料をカゴに入れていく。

 お菓子をいっぱい抱えながら僕の元に向かってくるあかね。
 僕は、幸せそうな顔をした彼女を見つめた。 

 告白シチュエーション実行作戦、上手くいくかな?


***

 買い物を無事に終え、いざカツ丼作り!

 ご飯炊くのをあかねにお願いして、僕はテキパキと料理する。

 そして彼女にお願いしようと考えていた、仕上げ!

 あかねは見事、完璧に卵を溶き、フライパンに入れてくれた。

「あとは任せて?」

 グツグツさせて、火を消した。
 フタをして蒸らす時間、あかねの好みのカツ丼になるには大体三十秒ぐらいかな?

「よし、出来た!」

 僕はフライパンのフタを開ける。

 味噌汁やサラダも準備して、ちょっと休憩したらご飯が炊けた音がピッピーとした。

 テーブルに並べ、あかねと向かい合わせになった。

「いただきます!」

 あかねの笑顔を確認してから、僕もカツ丼を一口食べた。

「美味しい! うん、あかねが卵をとじたカツ丼、美味しいよ! 炊いたご飯の硬さもちょうど良くて、美味しい!」

 自然に次の言葉につなげられる言葉、言えたかな? 次の台詞はついにあの言葉!

 僕の鼓動は早くなる。
 よし、言うぞ!

「僕以外のやつに、ねえちゃんが作った美味しい料理、食べさせたくねえ! 好きな人の料理を独り占めしたい」

 はぁ、言えた!

 言った後に気がついたけれど、これ、僕がノート見たの、バレない? 大丈夫かな?

「わぁ、嬉しい! ありがとう! 私もね、大好きな岳が作った、この大好きなカツ丼、独り占めしたいよ!」

 その言葉で、僕の心がキュンとした。

「また、いつでも作るよ!」

「ありがとう! あとね、今、ねえちゃんって言った? 新鮮! また呼んで欲しいな!」

 あかねはキラキラしながらそう言った。

 


 ――この調子で今夜、寝ぼけるやつもやろう!↓これを。

・義弟が夜中寝ぼけて、私の部屋に間違えて入ってくる。
そのまま寝ぼけたまま「これは夢なんだ、夢だから何だって出来る。現実で好きな人に告白だって……好きだ」みたいに夢と現実間違えて告白される。