一本の漏れもなく上を向いている長い睫毛。
コントラストの強い瞳は、私から思考さえ奪う。
「……入るわよ」
まるで術か何かに当てられた獲物のように立ち尽くす私を、彼女があっさりと越えていく。
「は?いっこ、なんで急に?」
「それはもう急にきたら困るわよね?
まだこの子に会ってるなんて、あれほど言ったのに」
数分前までは、ベッドと1つにでもなってしまうのかと疑うくらい、起きあがろうとしなかった浬が、いっこと呼ばれる彼女の存在に気づいて体を起こしている。
不機嫌そうにみえるのは、まだ眠くて堪らない目を無理矢理あけなければいけなかったから?
それとも、いっこさん、に、私との朝を見つかってしまったから?
「……っ、あのことに、杏は関係ねーよ」
「間違いなくウソね。
現に、浬くんがツマラナクなっていった時期と、この子に会うようになった時期は被ってるの」
私を置いて進む話。
苦しそうな浬の表情に、色んな可能性を考える。
彼女は誰?浬とはどんな関係?
あのことってなに?
ツマラナクなった、って、なんのこと?
「…っ、たまたまだよ」
「たまたま?私のこと、バカにしてるの?」
キレイに整った顔をあえて歪めながら、鞄の中からファイリングされた紙達を広げる彼女。
私が知らない何かを捕まえたくて。こんな時でも、しなやかに動く彼女の指を追いかけてしまう。
「ここからここまで、浬くんがたった1人の子に向けて曲を書いてることくらい、わかる。
去年の春から今までの、1年半。この子と出会ってからの時期と被ってるのは偶然?違うわよね?」
「……っ」



