朝にしては温度の高い日差しと、iPhoneのバイブレーションを意識の向こうに感じる。
無意識と現実がピントを合わせていく中で、不規則な機械音が立体的になっていって、それが、インターフォンのコール音だと気づく。
「浬、起きて。インターフォン。呼ばれてるよ」
朝は弱くない方といっても、明方まで起きていたせいで、頭がまわらない。浬を突きながら重い瞼を押し開けると、時刻は10時を過ぎた頃みたいだ。
壁に飾られたモノクロの時計が教えてくれる。
「んー……、むり。杏頼むわ」
低血圧な浬はもっと辛そうで、1ミリも開いてない目で、掠れに掠れた声で、私にお願いをする。
いいも悪いも聞かないまま、再び意識を手放す浬に呆れながらも、かわいいと思ってしまう。
そう思ってしまう限り、私は浬から離れられないんだろう。
「もー、急に親とか来たりしない?大丈夫?」
なんて、ほぼひとりごとになる浬への質問を投げかけながら玄関まで進んで、扉を開ける。
「どなたですかー?」
「……浬くん、出してもらえる?」
その先にいたのは、浬と同じように、カリスマ性を身に纏ったひと。
上質なブランドものも、誰もが知る華やかな香りの香水も、その人を引き立てる一部でしかない。



