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休日の昼下がりに、カフェという癒しの代名詞のような場所で、初々しい高校生カップルを微笑ましく見守れない私は、間違いなく不健康だと思う。


正常な私だったら、いいねぇ青春だねぇなんて言って、自分自身もしあわせな気分になれちゃうのになぁ。今日は無理みたい。

今の彼女達と同い年くらいだった時からずーっと、隣にはいるのに、彼氏にはならないあの人との今朝の出来事を思い出しちゃうんだもん。


かわいさが8割減するってわかっててもムスッとしちゃうし、あまくて大好きなキャラメルマキアートだって、ぜーんぜんあまくない。あまくないの。



『ねぇ孝太こうたくん?美奈みなたちもう付き合ってるでよくない?こんな風に毎日泊まってるなんて、半同棲のカップルと変わらないよね?』


『美奈、いくら付き合い長いからって、その冗談はダメだろ。軽くいうなよ』



引っ張り出される朝の記憶と連動するように、キャラメルの香ばしさが苦くさえ感じて、ちくりと舌先を刺激するから、ストローから唇を離した。



「……今さら、真剣になんて言える訳ないのに。孝太くんのバカ鈍感」



泊めるけど恋愛とは無縁って、それって家族と一緒。望みが1番薄いやつ。


口に出さずには収まらなかった気持ちに、つられるように涙が滲むなんて、美奈らしくない。


そもそも、孝太くんを好きになるまでは、ただたのしくて、しあわせで、トントントンって、うまくいく恋愛しか知らなかったのに。


4年も片想いなんて、ほんと、なにやってるんだろうなぁ。



……そろそろ、普通にたのしいだけの恋愛が、したいかもしれない。


その方が、美奈にはあってるのかも。


なんて。





「あれ?美奈ちゃん?
珍しく1人なんだね、ってかどしたの。
コーヒー苦かったとか?」



声を掛けられて、絶対的に違うって聴覚的にわかってるのに、どうして目で理解するまで、期待したくなっちゃうんだろう。孝太くんかもしれないって。



おかしいなぁ。なんだか悔しい。


どうして美奈ばっかり、こんなに孝太くんのことを好きでいなくちゃいけないの。



……あ、ちょっとムカついてきちゃった。




「ふ、なんですかそれ。
コーヒー苦いくらいじゃ涙出ないですよ?

あ、そうだ先輩、暇なら美奈に付き合ってくれません?ストレス発散しにいきましょ!」



顔をあげた先にいた勤め先の美容師の先輩は、女慣れしてると噂になっていた人。


いつもだったらスルリと交わして距離を置くのに、今日ばかりは、孝太くんのことを忘れてたのしめるなら、なんでもいっか、なんて思った。