「あっ!東雲く......ん。」
東雲君はたくさんの女子に囲まれながら靴を履いているところであった。
「ねえ、東雲くん。この後みんなでお茶でも行きませんか?」
「いえ、用事があるので遠慮しておきます。」
「東雲さまぁ〜!私とデートしてくださいよぉ!」
「いや......ごめん。」
こんなにも人気なのか。流石だなぁ……。
「ではまたの機会に。」
そう言って彼は去っていった。
結局話しかけられず帰宅する羽目になってしまった。
次の日も、その次の日も。毎日のように彼を見かけた。しかし声をかけることはできなかった。
「東雲くんってモテるよね。」
昼休み。屋上にて香菜とお弁当を食べているときふと思い出したように言った。
「そりゃそうばい。あん容姿でなんでんできてしまうし。」
「でも......。私、東雲くんにどうしても謝りたくて。それに、私東雲くんのこと初めて見た気がしないんだ。」
香菜は目を見開き興奮気味に詰め寄る。
「そ、そ、それって、運命ん相手と巡り合う時のシチュエーションやなか?!」
「わかんない。ただ、前世の記憶とか……?」
「えぇ... まぁとにかく、しおは東雲くんともっと親しくなりたいと?」
「え?!なんでそうなるの……。」
「顔真っ赤にしちゃってかわいかね!最近東雲くんの話題ばっかやけん。悪い子にはお仕置きば〜い!!」
「きゃっ!ちょ、ちょっと……」
脇腹をこしょぐられる。
「ひゃはは!!やめてよぉ……!」
笑い転げてるうちにチャイムが鳴り響いた。
「あ!授業始まっとう!急がんと!......そうや。言い忘れとったけど東雲くんの情報ゲットしとったんっさね。放課後中庭で一人になることが多いっちゅう噂ばい。」「あ、ありがとう!行ってみるね。」
放課後急いで中庭に向かうと東雲くんの姿はなかった。
「あれ?東雲くんいない……。」仕方ないので一人で帰ろうと歩き出す。
すると、背後から東雲くんが現れた。
「波野先輩。俺に何か用ですか。」
「え……!?いつの間に!?まあいいか、あのね、昨日のことなんだけど……。」
「気にしてないです。」
「ごめんなさい。次からは気をつけるから……。」
「別に気にしてないって......。」
東雲くんはため息をつき呆れたような顔をした。
「あんま気にしなくていいですから。じゃまた今度。」
「あっ……。」
思わず東雲くんの手を掴む。
「え、ちょ、なんですか?」東雲くんの顔がなぜか赤らんでいる。
「あの、こんなことを言ったら変なやつって思われるかもしれないけど、私ね、東雲くんと会った事があるんじゃないかって......思うの。」
彼の動きはピタリと止まった。
その時一瞬、東雲くんの瞳がうるっとして、すごく悲しそうな顔をした。でもすぐに私に背を向け、東雲くんはそのまま走って校舎に戻ってしまった。
***
「それで、それからどうなったと?」
「えっと……そのまま帰っただけだけど。」今日も私は香菜とお喋りをしている。
「なんね!進展なしと!?」
「うぅ……。ごめん。」
「しゃーしか!こうなったら、私が一肌脱いでやるたい!」
「えぇ?!ど、どういう意味?」
「東雲くんが思い出してくれへんのやろ?協力するっさ!」
「ち、違うよ!そ、それに私だって覚えてない……。」
「嘘つくんじゃなか!この耳で聞いたんよ!『東雲くんと会った事があるかも』って言っていたって!」
「だから……。『かも』って言ってるでしょ。本当に人違いかも。」「もう!とにかく明日は絶対一緒に登校するとよ!....その前に買い出しもするばい、分かったね!」
「えぇ……。」