あの時君に出会えたこと。それは運命なのだろうか。
たとえお互い違う体に生まれていたとしても、性別が違ってもきっと私達は結ばれていたはず。
きっと何年、何十年先も続くこの物語。
君となら幸せになるでしょう。



***
春。それは悲しい別れと新しい出会いを象徴した季節である。
透明な桜の花びらは何枚も重なりアスファルトの道を覆い隠している。
私は先日高校2年生になったばかりだ。
今日は入学式。玄関口には新入生と思わしき男女で溢れかえっていた。
なんだか心が躍る光景......!

「あの。」

耳元で囁かれた言葉に思わず動揺してしまう。

「ひっ!えっと......」

私の背後には一人の青年が立っていた。
整った顔立ち。眼鏡の向こう側に見える海の中のような、宝石のような綺麗な瞳に思わず吸い込まれてしまいそう。
まじまじと見ていると顔をぷいっとそらされてしまった。

あれ?この感じ懐かしいかも、この人どこかで......。

「波野しお先輩......ですよね。」
え、なんでこの子は私の名前を......?と少し困惑していると
なぜか一瞬悲しそうな表情をしたような気がした。
青年は大きなため息をつく。
「なんで名前しってるのって思ってるんじゃないですか?それは僕の下駄箱を見れば分かりますよ。ほら。」
『東雲はる』と書かれた下駄箱には私のシューズがはいっていた。
「え!ご、ごめんなさい!一年のときの下駄箱に入れちゃった...。」
「はぁ......今日からここは俺の下駄箱なんです。今後はこのようなことがないようにしてください。本当に先輩ですか?」

やらかしてしまった......

「読み方しののめで合ってるかな?ごめんね。次から気をつけるから!」
「...」「じ、じゃあ!」
青年を玄関に残したまま私は全速力で廊下を駆け抜けた。



「......。ああゆうところ、変わってない。あの人は俺のこと覚えてないのかな。」

青年の独り言は人混みに紛れて完全に消え去っていた。
***
教室に入ると友人の香菜が頬を膨らませ怒ったような素振りを見せた。
「遅い〜!うちはずっと待っとったけん!何しとったん?」
「あはは......間違えて一年生の下駄箱にシューズ入れちゃったんだ......。そうしたら男の子が来て。」
「お〜!恋のフラグ?その子の名前教えてほしいばい〜!」
頭を撫でようとする腕を振り払った。
「そうゆうのじゃないです!東雲はる君って名前だったと思う。」
すると香菜は眉間にシワを寄せる。
「東雲くん......しお。めっっっっちゃラッキーよ。それ。」
「え?なんで?」
「だってその東雲くん、東雲財閥の跡取りになったそうばい!超イケメンやし成績優秀、運動神経抜群なのに性格も良いっていう完璧超人!」
へぇー、そんなすごい人だったのか。確かに綺麗な目をしていたけど。
「しお!早く体育館に行くばい!もう始まるとよ!」
「う、うん!」

***
入学式はつつがなく終わった。
校長先生の長い話を聞き流し、校歌を歌い、そして閉会の言葉を聞いた後やっと帰れるという安心感に包まれていた。
「よし!帰ろっか!……。」
そうだ。全校生徒が集まってるし、探せばきっと東雲くんがいる。さっきのこと改めて東雲くんに謝りに行こう!
「ちょっと行ってくるね!先に帰ってても大丈夫だから!」
「あんま急ぐと怪我するけん、気をつけて〜!」
階段をかけ降り玄関に向かう。