【梨愛side】


拓也は、どんなチョコレートが好きなのかな……。
甘いの苦手かな?
そんな事を考えているのは、2月の始め。
もうすぐ来る、恋の一大イベント。
その名も『バレンタインデー』。
梨愛は、拓也と付き合い初めて初のバレンタインを迎えようとしていた。
拓也はどんなチョコレートが好きなのか、拓也の思う通りのものをプレゼントしたいんだけど……。
梨愛、ぜんっぜん分かんない!!
そもそも拓也が甘いもの好きかどうか……!
でも、バレンタインって言っても、全員が全員チョコレートをプレゼントする訳じゃないみたい。
そうなると、更に選択肢が広がって何をあげればいいのか分からない。
拓也本人に聞くのはなるべく避けたいし……あ。
そんな時、梨愛の頭の中に1人の人物が浮かんだ。
気まずい……かな?
でも、相手は多分思ってないはず!
そして、梨愛は教室の隅の席へ向かった。

「あ、あの!ちょっといいかな、葉月さん!!」
そう、それは拓也の幼なじみの葉月ミユちゃん。
幼なじみなら、色々な事知ってるかなと思い、葉月さんに声を掛けた。
「あら?あなたは……桃瀬さん?私に何か用?」
わっ、可愛い……とか、思ってないし?
でも、フワッと笑う葉月さんは、誰が見ても見惚れてしまいそうな程綺麗。
梨愛は勝手にライバル感を抱き、葉月さんに早速話を切り出した。
「葉月さんって拓也……えっと、清美くんの幼なじみだったよね?」
「うん。」
梨愛は髪をいじりながら少し照れくさそうに言う。
「あの……ね、梨愛と拓也、付き合ってるの。」
「え!?そうだったの!?」
「わー!声が大きいよ!」
「ご、ごめんね!」
思ってたよりも話しやすい子だな……。
そう梨愛は安心していた。
「もうすぐバレンタインで、拓也にチョコレートをあげようと思うんだけど……拓也ってもしかして、甘いもの苦手だったりする?」
前パンケーキを食べた時もそう。
拓也、あまり反応が良くなかったから苦手なのかなって。
すると、葉月さんはこう言った。
「うん、苦手だと思う。」
「え!ほんと!?」
1番困る答え来た……。
でも、大丈夫だよと言いたげにニコッと笑う葉月さん。
「拓也、ミルクとかは為だと思うけど、ビターチョコレートなら時々食べてるから、嫌いじゃないと思うよ。」
その答えに、梨愛は安堵する。
チョコレートダメだったら、梨愛多分一生悩み続けてたと思う……。
それより!
やっぱり、拓也って甘いものダメだったんだ。
それなら、あの時梨愛無理に食べさせたよね!?
こめんね、拓也……。
それでも、気遣って美味しいって言ってくれたんだ。
だから……今度は心の底から美味しいって言えるチョコレートを作る!
って言ったものの……
「梨愛、チョコレート作った事ない……」
そしてため息。
その様子を見ていたそうな葉月さんは、天使の笑顔を浮かべてこう言ってくれた。
「桃瀬さん、よければ私手伝おうか?」
「えっ、いいの!?」
「うん、私も友達にチョコレートあげるつもりで、もう材料は整ってるし。」
葉月さん優しい……。
梨愛の胸がジーンとなっていると、ふと疑問が思い浮かぶ。
「えっと……梨愛、どれくらい材料買えばいいのかな?」
その質問にも丁寧に返してくれる葉月さん。
「桃瀬さんは、どんなチョコレートを作りたいの?形とか、大きさとか!」
「形、大きさ……」
うーん、どうしようかな。
1口サイズの丸とか四角とかハートとかの形をランダムに、個数は……4つくらいかな。
それを葉月さんに伝えた。
「じゃあ、失敗しても大丈夫なように、ビターチョコレートの板チョコを少し多い3枚くらい買っておけばいいと思う。あっ、丸とかの形をかたどるのは私が持ってるから大丈夫だよ。」
あっ、それと。
「どこで作るの?葉月さんの家にお邪魔する訳にはいかないから……梨愛の家ならいいと思うけど。」
「私の家だよ。まあ、本家じゃ無いんだけどね。」
「ええ!?」
梨愛お邪魔するって事だよね……手土産とかも考えておかないと。
梨愛が1人考えていると、葉月さんが嬉しい提案をしてくれた。
「ねぇ桃瀬さん、これから梨愛ちゃんって呼んでもいい?」
!純麗以外の女の子の友達……嬉しい。
「うん!梨愛もミユちゃんって呼んでもいい?」
「うん、よろひくね。」
そして、梨愛には新しく友達が出来た。

バレンタインデー当日。
ミユちゃんの教え方が上手なおかげで、初めてにしてはよくできたと思う。
ラッピングもバッチリ。
そして放課後。
拓也を正門前で見つけた。
「拓也!」
すると、すぐにこちらに気がついてくれた。
「梨愛、どうしたんだ?」
あっ……ここで渡すのもなんだし……。
「拓也、ちょっと来て!」
そして来たのは屋上。
放課後だからヒトカゲも見当たらないし、ベンチなどもあるからすぐ食べられる。
そして、未だに拓也はキョロキョロしていて、挙動不審だった。
「拓也、その……はい、これ。バレンタインデーだから。」
「梨愛、チョコレートを作ってくれたのか?」
「うん」
そうやって喜んでいる姿を見ると、より達成感
が湧く。
拓也は、早速包装を解いてチョコを1口。
「……うまい。」
それは、まるでおいしいものを初めて口にした少年のようだった。
すぐに2つ目にも手を出そうとする。
すると、拓也はピタッと手を止めて。
「梨愛、なんでビターチョコレートなんだ?」
「あ、それはね、ミユちゃんに聞いたの。拓也は甘い物が苦手だって。」
「ミユ……葉月ミユの事か?」
「うん!」
すると、優しい笑みを浮かべてくれた。
「そうか。知人同士が仲良くなるのは、悪い気分じゃあないな。」
そしてチョコを口に入れる。
拓也が喜んでくれて良かった……また来年も、作ろうかな。
なんて思うのはせっかちだろうか。
拓也は、2つチョコレートを食べ終わると何故か梨愛の顔をジーッと見つめた。
「っ……、?」
どうしたの?……というか、そんなに見られると恥ずかしい……。
「チョコレートは美味かった。甘い物が苦手な俺の為にビターチョコレートにもしてくれた。でも……」
すると拓也の顔が近づいてきた。
!?
気づいた時にはもう、唇が重なっていた。
チョコレートのせいか、ほんのり苦くて。
あたふたしている梨愛を見て、拓也は満足そうな顔を浮かべこう言う。
「俺は、チョコよりもこっちの方が好きだな。」
「っ……!!た、拓也のイジワル!」
この先の梨愛の人生は、拓也によってもっともっと甘くなるーー。