【梨愛side】


「梨愛、足元気をつけろよ。」




「もうっ、車降りるくらい大丈夫だよ!」




「いや、ダメだ。梨愛が怪我したらどうするんだよ。」




口調と性格共に変わったタタは、そんな事を言っている。




溺愛が過ぎるんじゃない?と思ってる梨愛。




今、梨愛は学園前に着いた車から、タタによるエスコートで降りようとしている所だった。




タタは、梨愛に秘密を言ってくれて、それからというもの人が変わったかのように溺愛してくる。




嬉しいけど、心臓がもたないかも!




タタの方をチラッと見る。




すると、ニコッと笑みを浮かべた。




「っ………」




別にかっこいい……なんて思って無い……し?




そう思いながらも、梨愛とタタは付き合っている。




それでタタが手を繋いでくるし、人柄も変わったから周りからの視線がすごい。




「清美様!?それと隣にいるのって桃瀬さんよね?」




「あの2人付き合ってんじゃね?俺桃瀬さん狙ってたのになー。」




「それな、マジ可愛いよな。」




タタ、人に注目されるの好きじゃないのかな?




さっきから不機嫌。




「タタ大丈夫?」




「何がだ?」




「なんか、機嫌良くなさそうだったから……」




すると、タタは舌打ちをした。




!?




や、やっぱりタタ怒ってる?




でも、梨愛に舌打ちしたってことは梨愛が気に入らないのかな?




何か変なことしたっけ!?




梨愛がへこんでいると、タタはあたふたし始めた。




「梨愛のせいじゃないんだ、ごめん。俺の勝手な嫉妬だから……」




嫉妬?何にだろう。




「?ふうん……」




タタの落ち着かない様子が気になりながらも、梨愛とタタはそれぞれの教室へ入る……




んだけど、何故かタタが梨愛と同じ教室に入った。




「タタ?タタの教室こっちじゃない……よ?」




「いや、ここだ。」




はい?




頭がパニックを起こしている。




「今日から俺の教室はここだ。」




繰り返されても………。




そして梨愛の隣の席に座るタタ。




え、ちょっと。ここ栗野くんの席……。




ちょうど栗野くんが教室に入ってきた。




「え、と……清美……くん?ここ僕の席なんだけど……。それに教室も違うよね?」




そう言って、梨愛に目でどういう事?とでも言いたげに訴えてくる。




「あっ、栗野くんごめんね!梨愛も何がなんだか分からなくて……タタ、早く自分の教室に戻っ……」




戻って、と言おうとしたら、タタからただならぬオーラが見えるんだけど……。




その様子に、栗野くんも後ずさりをする。




もう……こうなったら!




「栗野くん、先生の所に相談しに行こう!」




「う、うん……」




そして梨愛が栗野くんの手を取り職員室に向かおうとする。




「っ………」




なんだか栗野くんの顔が赤いけど……今はそんな事気にしてる場合じゃない!!




教室を出ようとしたら、タタに腕を引っ張られる。




「離せ。」




そう言いながら、タタは栗野くんを睨んでいる。




「ちょっとタタ!?」




手を掴んでるのは梨愛なんだから栗野くんに言ってもダメだよ!




とりあえずタタの言う通りにする。




「栗野くんごめんね、手離すね。」




「あ、うん……」




手を離した瞬間、タタは梨愛をお姫様抱っこで教室から連れ出した。




さっきまで静まり返っていた教室は、女子の高い声で包まれた。






「ちょ……ちょっとタタ!降ろして!」




タタは、屋上へ向かっていたのか階段を上り続けていて、その途中で梨愛が口を開いた。




「どうしたの?なんでそんなに怒ってるの?」




タタはそっぽを向きながら。




「別に、怒ってない。」




じゃあ、なんで……




目を合わせてくれないの?




「タタ、こっち向いて。」




「嫌だ。」




「なんで?」




すると、タタははぁ〜っとため息を吐いて。




「こんな嫉妬顔、見せられるわけねぇ。こんな事で嫉妬するとか……」




「え……嫉妬、って……もしかして、栗野くんと梨愛が手繋いだから、嫉妬してるの?」




「………」




手で顔を覆って隠しているタタ。




でも、耳までは隠しきれていない。




その耳はとても赤くて。




タタが、嫉妬……。




心臓の音が、うるさい。




ドク、ドク、ドク……。




「タタがそんな顔するから、移っちゃったじゃん……」




「っ……もー無理、梨愛のせいだから……」




そう言って、タタは梨愛にキスをした。




「た、た……」




いつもより長いキスは、梨愛の足の力を抜けさせるには十分だった。




「あ、タタ……」




腰が抜けて、立てなくなってしまった。




「やっぱり、屋上行くぞ。」




なんて言いながらいつものお姫様抱っこ。




タタは梨愛を抱えてどんどん階段を登って行った。




そして屋上に着き、ベンチに梨愛を座らせてくれた。




「タタ、ごめん、ありがとう……でも、さっきのはタタが……えっと、えっと……とにかく!タタのせいで腰が抜けたんだからね!」




そう言うと、タタは梨愛の唇に人差し指を当てて、からかうように言ってきた。




「“梨愛ちゃん”、誤魔化したらだめだろ?俺がさっき、何をして腰が抜けたって?」




わ、分かってるくせに……やっぱり、口調が変わっても、イジワルな所は変わらない。




「……」




「黙ってちゃまた……さっきの、するよ?」




「な……」




黙って何も言わない梨愛に、そんな事を言い始めるタタ。




さっきのって……やっぱり分かってるよね!?




でも、言わないと……うう、タタずるい!




「タタが……」




「うん、俺が何?」




「タタが、き、キス……してくるから……」




恥ずかしさのあまり手で顔を隠したら、タタにその手を取られてしまった。




そして、梨愛の真っ赤な顔はタタに晒された。




「やっぱり、梨愛が1番可愛い。栗野くんとか、呼ぶな。
それと、他の男の手を取るのも。梨愛の隣の席も全部俺。分かったか?」




タタ………その顔でそんなセリフ言われたら……かっこいいって、認めざるを得ないよ。




でも、栗野くんって呼ばないとか……すごいコミュニケーション取りにくいんだけど!?




「うぅ……」




「ほら、りーあ。」




「……わ、わかっ、た……」




梨愛の返事を聞くなり、またお姫様抱っこで教室に戻ろうとし始めるタタ。




「タタ、ちょっと、恥ずかしいよ!」




そう言うとタタは小悪魔な笑みを浮かべて。




「さっき見られたんだから、いいだろ?それに、見られた方がいい。梨愛は俺のだって、証明するために。」




「〜〜っ、やっぱりタタイジワル……ぼーそーぞく入ってたとは思えないほど。」




……甘いほうに、イジワル。




「ふっ、それはどうも。」




「褒めてない!!」




そんな時、廊下に亮の姿が見えた。




亮もすぐこちらに気がついた用で。




あっ、今亮に見られたら……!




そう焦っている梨愛がどこかいた。




何せ今はお姫様抱っこだからだ。




梨愛が片想いしてる人のこんな姿みたら……悲しくて逃げちゃいそう。




でも、亮は逃げずにいてくれた。




「廊下でそんな事しながら歩いてるとか、見せつけとしか考えられねぇな。」




いつもの様に言ってくる亮だけど、やっぱり少し寂しそう。




幼なじみの私だからこそ分かるくらい少しだけ。




「見せつけてんだよ、俺のだから手ぇ出すなって。特にお前にな。」




「ハッ、まだすぐ俺のもんにしてやる……ってか、お前喋り方どうしたんだよ?」




あ……そっか。亮は口調が変わったタタに会うのは初めてだったっけ。




「どうもしてねぇよ。これが本来の喋り方だ。」




「へえ、そんな自分隠してる奴だったのか。じゃあ尚更お前に梨愛はやれないな。」




そんな2人の煽りあいが続いている。




「もうっ、2人とも!そんなに喧嘩しないの!」




……この体制で言うのもなんだけど。




「それに……なんか亮、パパみたい。」




「パッ……!?」




予想外だったのか、亮は驚き、タタなんか笑いを堪えている。




そして一息ついてこう言った。




「だってよ。お前はパパらしいから旦那の役割は俺だな。」




「はあ?大体お前は梨愛の旦那じゃないし、俺が梨愛の親ならお前なんかに娘をやる気はないね。」




埒が明かない……梨愛が怒ってからまた2人が喧嘩し始めるの初めてかも。




どうしようか困っていると、先生が亮の事を呼び出した。




「チッ、タイミングの悪い。とにかく。梨愛、こんな奴じゃなくて俺のとこに来い。」




「あ、はは……」




終始タタを悪く言いながらも梨愛を好きでいてくれた亮に、苦笑いをしながら手を振った。




タタは更に機嫌が悪くなった様だった。




その日の放課後、梨愛はタタにバイクに乗らないかと誘われた。




タタが暴走族の時に使っていたものらしく、家出をしたタタにお金は無かった為そーちょーさんのお下がりだそうだ。




梨愛が乗ってみたいと言った時のタタの顔は本当に嬉しそうで、梨愛まで勝手に笑顔になる程だった。




そして、家にバイクを取ってくると言いタタが車に乗ってから20分強。




タタは、堂々とバイクに乗って学園の門に現れた。




着いて早々、タタは梨愛にバイクに乗ろうと言ってきた。




「バイクって……近くで見ると結構大きいんだね。」




「ああ、最初は俺も思った。」




これは乗るの大変そう。




梨愛が困っていると、察してくれたのかタタが持ち上げ梨愛を乗せてくれた。




「……ありがとう。」




なんか、あんなに軽々と持ち上げられるとなんか複雑。
でもバイクが走り出したらそんな気持ちすぐに消え去って。




「わあ〜、気持ちいい!」




「なら良かった。」




ヘルメットをしているタタを後ろから見ても、喜んでいるのがわかる。




気持ちいいし、景色もいい。




だけど……




この体勢、心臓持たないかも!




梨愛は、危ないからと言ってタタの腰に手を回している。




つまり、タタに抱きついている状態。




バイクが風を斬る音よりも、心臓の音の方が大きい。




これ、タタにバレてるかな……。




そう思った時。




あれ?




タタも、もしかして心臓バクバクしてる……?




背中の温もりを伝って分かる、タタの心。




タタもちゃんと梨愛を好きでいてくれてるのだと、改めて実感した。




……梨愛、もうタタの事かっこいいって認めざるを得ないかも……。




そして、タタの腰を少しだけ強く抱きしめた。





翌日、梨愛が学園に投稿してきて靴箱の前にやってきた時、事は起こった。




「ん?何これ……」




梨愛のシューズをどかさないと見えない様な所に、1枚の紙があった。




「……え?」




そこには、目を疑うような事が書かれていた。




『今日の放課後、一人で校舎裏の倉庫に来い。来なければ殺す』




どういう事?それに、校舎裏の倉庫って……。




梨愛は、前のファンクラブの1件から、校舎裏の倉庫がトラウマになってしまっていた。




サァーッと血の気が引いていくのが分かった。




ど、どうしよう……。




タタや亮に相談してみようかとも思ったけど、2人に相談したら1人で来いって言われてるけど、付いて来てしまう気がした。




それで2人を危険な目に合わせるのは嫌だ。




そもそも、梨愛の靴箱にこの紙を置ける事がすごい。




知らない人が昨日から今日の朝までにこの学園に侵入できるほど、お金持ち学校の警備は緩くない。




だとしたら……生徒?




そう考えてしまう自分に嫌気がさした。




想像して、余計に鳥肌が立ったからだ。




梨愛は、一人ずっと悩んでいた。




どうすれば……タタ達を巻き込まずに解決できるだろうか。




考えてもやっぱり、梨愛が1人で行った方が……よし、怖気付いてたらダメ!




足は震え、心臓はうるさく音を立てていて。




そう自分に言い聞かせないと、踏み出せないと思ったから。




そう決意したものの、梨愛は少しでも気を楽にしようとタタとお昼ご飯を食べていて体調が悪くなった。




吐き気に頭痛、目眩までした。




梨愛、こんなにトラウマになってたんだ……。




「梨愛っ、大丈夫か?しっかりしろ!」




「タタ、ごめ……うぷっ」




タタは、梨愛を抱えて保健室に連れていってくれた。




意識が混濁している中見えた景色。




覚えているのは、タタが保健室のベッドに寝かせてくれて、梨愛の手を握りしめてくれた事だけだった。




……ううん、だけじゃない。梨愛には十分すぎるよ、タタ。





「………」




眩しい。




そう思いながら目を開ける。




梨愛の左側にタタが椅子に座っている。




「梨愛、大丈夫か?辛いだろ?」




そう言いながら、梨愛の頭を支えるように自分の腕を後頭部に回すタタ。




「大丈夫だよ、タタ。ほんと、梨愛心配かけてばっかりだよね。」




「ああ、本当に。もっと自分を大切にしてくれ。」




梨愛的には、大切にしてるつもり。




梨愛は体が弱い方だから、仕方がないのかもしれない。




でも、今回は違う……ん?




今回は違うって、何でだっけ。




………あ!




突然目を見開いた梨愛に、タタはどこか痛むのかと心配をしてかる。




タタ、ごめんね。




そうじゃなくて……




「タタ、今何時?」




「え、ああ……今は6時間目が後もう少しで終わるところだ。」




その言葉を聞くなり、安堵する自分とそんな自分に恐怖が再び押し寄せてきた。




『来なければ殺す』




あの禍々しいオーラを纏った字を思い出し、このまま放課後まで寝続けていたらどうなっていただろうと思い身震いをする。




タタには悪いけど、やっぱり梨愛は行かないといけない。




梨愛がベッドから立ち上がろうとすると、タタはそれを止めた。




「梨愛、まだ立ったらダメだ。さっき倒れたばかりだ。」




そうだけど、でもね。




「タタ、ごめんね。梨愛、行かなくちゃいけないから。」




「なんで?」




「それは……」




話せない。




タタに言ってしまってはいけない。




口を閉じた梨愛に、タタは優しく問いかける。




「何か困ったことがあるなら、俺になんでも言ってみろ……それか、梨愛は俺が信じられないか?」




信じられない、って?




「そんな事ない!そんな事ないよ……でも、本当に大丈夫だから。」




タタはそんな梨愛の答えに、数秒梨愛を見つめて「……そうか」と言ってくれた。




でも6時間目終わるまではまだ休んでいろと言われ、もう少しだけ横になる事にした。





そして放課後になり、梨愛は重い足を引きずりながら校舎裏の倉庫へ向かった。




校舎裏へは来たものの、人らしき影は見当たらない。




これ……倉庫の中まで入って来いって事?




もちろん気は進まない。




でも、もい引き返すなんて選択肢は梨愛には無かった。
嫌な音を立てて空いた倉庫の引き戸。




その瞬間。




中を確認することが出来ないまま、梨愛は中に引きずり込まれ、口を布で抑えられたり。




そして気がついた。




あれ……この布、ただ、の……じゃな……。




そこで、梨愛は目を閉じた。





またも眩しいと思いながら目を開ける。




そこは見た事の無い所で、ゴミが至る所にある倉庫だった。




手足は鎖で柱に繋がれていて動かせない。




「まさか、本当に来るなんてな。」




「まあ、来ないと殺すって書いたし。」




「でもあれどうみても嘘じゃん。」




そんな事を話している男3人。




同じ高校生くらいだろう。




会話から、梨愛を誘拐したのはコイツらで間違いなさそうだ。




それに、殺すって嘘だったの?




梨愛を騙したこのクソ野郎、許せない。




でも、梨愛に反抗する力なんて無い。




出るとしても、か細い声だけ。




男がこちらへ近づいてくる。




「ねぇ君、清美拓也って知ってるだろ?」




「え?」




タタ?どうして……。




「なんでって顔してるね。俺らはね、アイツに仕返しがしたくて君を誘拐したんだ。」




「仕返……し?」




「そうだよ。」




そう言ってニッコリと笑う男。




笑っている。




笑っているはずなのに、梨愛にはその笑顔が怖くてたまらなかった。




タタといる時とは別の意味で、心臓の音が全身で鳴り響く。




ここはどこなの?




そんな恐怖心を煽るかのように、男は言った。




「アイツ、俺らの仲間殺したんだよ。」




こ、ろすって……





「タタが、そんな事はず……」




「タタって呼ばれてんだ、アイツ。君アイツの彼女でしょ?まあ、彼女の前ではいい顔したいから普通隠すでしょ。それに家金持ちだから問題起こす訳には行かないし。」




「嘘、言わないで、よ……」




「嘘じゃない。」




梨愛の耳元に顔を近づけてくる。




「君の大好きな彼氏は、人殺し、なんだよ。」




男の吐息が耳にかかる。




っ……いや……!




恐怖の中、必死にここから出ようと足掻いた。




タタを巻き込む訳にも行かないし、梨愛もこんなとこいたくない。




「梨愛……タタの彼女じゃ、ない……」




「えぇえ?そんなはず無いでしょ。だって君、アイツのバイクの後ろ乗ってたでしょ。」




あれ、見られてたんだ……だから、梨愛がタタの彼女だってバレたんだ。




でも、彼女じゃなくてもバイクには乗る可能性だってある。




「それが、何……」




「アイツはな、大切な奴しか乗せないんだよ。」




そう、なんだ……。




嬉しいけど、今はそんないつまでも浸っていられる状況じゃない。




「そうだとしても、梨愛は彼女じゃない……っ」




それでも、男はニタァっと笑うだけ。




「へぇ、そっか……でも、君がアイツの大切な奴って事は変わらないよね。じゃあ、アイツは大切な人が自分のせいで傷ついたら、どうなるんだ?それが、気になって仕方ないんだよねぇ!」




狂ったように笑い始めた。




怖い……っ!




そう目を瞑った時、胸元が涼しくなった。




え……




その男が、制服のボタンを外していた。




「ねぇ、何してるの!ねえ!やめて!!」




「ふふ、いい顔。」




ああ……狂ってる。コイツは、“悪”だ。




関わってはいけない。




そう、本能が言っている。




でも男はそんな事知らんぷりで、梨愛の服を脱がしていく。




もう、ダメなのかな……。




梨愛の腰に男の手が触れ、身体に憎悪が走った時。




確かに、聞こえた。




目の前にいる汚らわしい男とは違う、優しい声。




「梨愛!!」




愛おしくて、たまらない人。




大切で大切な人の声が、梨愛の名前を呼んでくれた。