「ううん、行きたい……お腹空いてるから」

嫌なわけがない。
彼との二人だけの時間を過ごせるなんて、“やったー”と叫びたいほど嬉しいに決まっている。
だけど空腹だと口にしたのは、臆病な心が顔を出したからだ。

「そう、よかった」

宗君の表情が優しいものに変わる。
久しぶりに見るような気がして、目が離せない。

「じゃあ、行くか」

「うん」

宗君は席を立ちゴミ箱にコーヒーのカップを捨てた後、私の手を取った。
手が瞬間的に熱を持ち、それは体全体に広がっていく。

「宗君……?」

手を繋いだことは、何度もある。
でもそれは幼い頃であって何十年も前の話だ。