振り向くと、想定していた人がいて、思わず顎を引いた。

「こ、こんにちは……」

黒のパンツスーツを美しく着こなした小野さんを前に、ひどく動揺した声が出た。
彼女の目は怒りに燃えているように見える。

「あなた、いつまで彼の奥さんでいるつもり?」

挨拶を返すことなく、私のすぐ側に立った。

「え?」

「私ね、結城君のことが好きなの」

それは勘づいていたことなので特に驚かない。

だが、次の瞬間まるでワサビを口にした時のような衝撃を受けた。

「本当のことを言うとね、私たち付き合ってるのよ」

受けた衝撃が大きすぎて声が出ない。

「あら、その感じだと気付いてなかったのかしら?」

小野さんは、紅色に艶めく唇を意地悪く上げて悪魔のように笑った。

「信じられない?仕方がないわね、じゃあこれを見たらわかるかしら」

彼女は手にしていたスマートフォンの画面を私に見せた。
そこには、ベッドで眠る宗君が映っていた。

彼はバスローブを着ているもののはだけていて、私がまだきちんと見たことのない胸元がのぞいている。

普通の間柄では撮ることのできない写真である。