もしもあの音声データを聞かなかったら。
 もしも片山真美と話をしていなかったら。

 私は雅人のこんな嘘に騙されて…いや、それが真実だと思いたくて縋ったのだろうか。
 ああ良かったって上辺だけ取り繕って、いつもの家族になって。
 雅人は真美との関係を深めて。

 じゃあ…何?
 私は片山真美に感謝するべきなの?


 ホントウノコト 
 オシエテクレテアリガトウ





「ふざけないで‼︎」

「私は…私がっ、あなたから聞きたかったのは、そんな話じゃない!」
「は…な? 何…」

 波那自身、人前でここまで感情を露わにして泣いたことなど今までなかった。
 けれどあまりの怒りに、今は自分を止める術を見つけられない。

 びっくりして固まっている雅人を置いて波那は寝室に駆け込み、机に出したままにしてあるノートパソコンと、一番下の引き出しからUSBメモリーを持ち出してリビングに戻った。

「私がこの1週間どんな気持ちでいたか、これを聞いたらわかるよ。ほんとはっ…本当はこんなの出さずに雅人と話をしたかった。」

 パソコンを目にした雅人の顔色がわかりやすく青くなった。
 
 波那はその後言葉を続けずにパソコンを起動させ、メモリーの音声データをダブルクリックした。

 長くも短くもあったその時間、波那の指は絶えず小さく震え、微かだが何度か迷うような素振りを見せた。

 そして… くぐもった2人の男女の声が流れる。