特等席〜私だけが知っている彼〜2

ライブ出演者の控え室に入るなど、普通ならばできないことだ。だが、五十鈴に今回のライブのチケットを渡された際に「終わった後、控え室に来て!」と懇願されたため、今に至る。

「こちらが控え室になります」

「案内、ありがとうございました」

真っ白な控え室のドアには、「Rose」と書かれた紙が貼られている。この向こう側に五十鈴がいるのだ。椿芽は胸を高鳴らせながらノックをする。

「椿芽!!」

ノックをした刹那、待っていたかのようにドアが開き、椿芽が状況を理解しないうちに五十鈴に抱き締められていた。

「来てくれてありがとう。椿芽が俺を見てくれるから、いつもよりダンスとか歌張り切っちゃった」

髪を弄ばれながら甘ったるい声で言われ、椿芽の顔がまた赤く染まる。すると、「そんな廊下でイチャつくなよ〜。邪魔になるぞ」と控え室の中から声がする。

「五十鈴くん、離してほしい……」

Roseのメンバーに見られていることに椿芽が恥ずかしくなってそう言うと、五十鈴は少し残念そうにしながらも体を離してくれた。だが手だけは離してもらえず、指を絡められる。