明日、きっと別れを告げます

もっと、言うことはあったはずだ。
もっと、責め立てることもできたはずだ。
その場で、別れを告げることだってできたはずなのだ。

それなのにできなかった。
雰囲気で流されて、優しい言葉に絆されて、そうして簡単に人を信用して。
それで後悔して泣いて惨めな気持ちになるのは私なのに。

もし本当に夫婦生活が破綻していて、離婚する気持ちも本当で、私を好きだと言ってくれる気持ちも本当だとしたら、私はどうしたらいいのだろう。
いくら夫婦生活が破綻しているからといっても、結婚しているのならそれはやっぱり不倫になるわけで。

騙されていた……といったら聞こえはいいけれど、それは自分をただ正当化しようとしているだけな気がして心は穏やかではない。

それに、明日の会議のための資料作りは嘘かもしれない。
家には奥さんと子供が待っている。
だから夜まで一緒にいられないのかも。

考え出したらもうそれしか考えられなくて、ますます胸が苦しくなる。

同僚が言った、「高野さん奥さんいるよ」その言葉がすべてを現していたのだと思う。
そうやって私に忠告してくれるということは、きっと知らないところで噂にでもなっているのだろう。
自分だけが浮かれていてまわりの声が耳に入らなかった。
自分の見えている世界がすべての世界で。
忠告してくれる同僚や幸せを願ってくれた宗田くんの気持ちを蔑ろにした。

この罪は一生消えない。

「……っう」

込み上げてくる熱いものは涙となって、冷ややかに頬を濡らす。

愛されていた。
幸せだった。

綺麗だった思い出はすっかりとくすんで、闇に落ちていくように汚れていった。

人を好きになることがこんなにもつらいことだなんて思わなかった。
これを恋だとか愛だとかで表現していいのかわからないけれど。

これ以上深みに嵌る前に。
これ以上罪を重ねる前に。

明日、きっと、彼に別れを告げる――。


【END】