握られた手の感触が敏感に感じ取れるほど、彼の一挙手一投足に胸をときめかせる。

これから起こることへの期待と欲望、そしてほんの少しの不安。
それらすべては彼の大きな包容力によって未知の世界へと導かれていく。
そっと頬を滑る彼の指先。
その感触を敏感に感じ取った私は小さく肩を揺らした。

「真知」

名前を呼ばれて目線を上げれば柔らかな微笑みを浮かべた彼。
いつの間にか「仁科」と苗字呼びから「真知」と名前呼びになっている。
目尻がきゅっと下がって彼の唇が甘く動いた。

「好きだよ」

ああ、私はなんて幸せなんだろう。
こんなに満たされる気持ちは初めてだ。

胸の中にあった彼に対する 「好き」という気持ちが弾けて、もう 「好き」 だけでは言い表しようのない得も言われぬ感情で支配されていく。

「私も……」

好き、と言おうとしたのに、その言葉が紡がれることはなく、彼の柔らかくて温かい唇で塞がれる。
軽く触れるだけだったキスは次第に角度を変えてついばむようになり、 そして唇を割って口内に侵入してきた。

「んっ……」

わずかに漏れ出た声。

「真知、 可愛い」

そんな些細なことまで彼は私を褒める。
それが嬉しくないわけがない。

この先彼に何をされようが、受け入れる心が出来上がりつつある。そんな私の気持ちを見透かしたかのように彼のキスは深くなり、頬に触れていた手もだんだんと下りていっていた。

大好きな彼にすべてを捧げる。

大げさかもしれないけれど、私の初めては彼とだったらいいかなって思えた。
それくらい好きな気持ちが大きくて。

私が恥ずかしいと思っていることすべてを、彼は「可愛い」と表現する。

羞恥で真っ赤になった頬も、そんなに大きくない胸も、スタイルがいいわけじゃない体型も、素直じゃない性格も、すべて。

そうやって喜んで受け入れてもらえることが私も嬉しい。異性からこんなにも求められることに喜びを覚える日が来るとは思わなかった。

社会人になって初めてできた彼氏は、年上で、優しくて、頼りになってそしてとても大人の魅力に溢れた男性。
いつも私に愛の言葉を囁き、心も体も蕩けさせる。
愛されていることを日々実感し、幸せでたまらなかった。


そう、昨日までは。