私は、そっと通話ボタンを押して、瞳を閉じた。


好きで、愛して、燃えて、灰になった私の心。


こんなにも酷い仕打ちで、心を壊されていくのに。



私の気持ちのベクトルは…まだ、貴方へと向いている…。



「は…っ…。まだ、好き…か」


自嘲気味に、微笑もうとして失敗する。


ぐしゃり


掴んだ前髪に力が入ってから、ポタポタと涙が落ちた。



愛してなんかやらない。



そう決めたのに、体を許したのは…一時の迷いなんかではなく、本能で。


私は彼の一部になれたと、そう思い込んで必死にしがみついで来たのに…。


「なんで、こうなるのよ」


呟きは果てしなく深い闇へと落ちる。
それは、私の心の深淵だった。


狡くて、甘い棘を持って、私の肌に次々と傷痕を残して、そんな中で囁かれる睦言に溺れるわけにはいかなくて、十二分に虚勢を張って、私なりに出して来た結論。


「ばかなのは、私だな、いつも…」


そう…。

貴方と触れ合ってしまったあの夜から、私の身はジリジリと灼かれ、死刑台に乗せられていたんだ。


何時か、こうなることを望んで…。


燎原の火…。


燃え上がり、息も絶え絶えになり、地獄の中を這り回る。



そんな辛さを…貴方は分かっていますか?


ただ【アイ】を囁やけばいいわけじゃない。


気付かない内に、誰かを傷付けていることを…その身に刻みなさい。


誠実さなんてどこにもない、真実なんて欠片もない、曖昧で不安定な蜜を啜って…本物の愛を見出しそうとする貴方はどこまでも子供で、憎くて…。



こんなにも、壊されるのに。


まだ、好きで…。




Fin.